エクスフォスのアーシェリスらと共にリベルニア軍を共同してなんとか退けたティレックスとアーシェリスたち。
その時の作戦の内容については予めティレックスには伝えられていたが、
アーシェリスには知らされていなかった、リファリウスが考えたことであるため、ティレックスには非はない。
しかも、アーシェリスは”リファリウスだから”という理由で、その件についてはこれ以上考えないことにしていた、苦手なのでわざわざ会いたくないのである。
ただ、しばらくはもやもやしそうである――いや、しばらくどころかずっとなのだが。
そして、リベルニアから脱出後はアルディアスへ直接戻らずにクラウディアスに留まり、
その後は再びエクスフォスのアーシェリスらと行動を共にし、エクスフォスの問題をなんとか決着させることを見届けることになった。
その後、今度はクラウディアスを経由してなんとかアルディアスのルダトーラへと戻っていたティレックスだが、
何やら不穏な動きを予感させる情報を得たのである。
「エダルニア軍とディスタード本土軍が?」
それは、ルダトーラのハンターズ・ギルド内での話だった。
ティレックスは受付をやっているファイザからそんな話を聞かされていた。
「エダルニア軍についてはガレアからの情報、つまり、アール将軍こと、リファリウスの話だな」
以前にも同じような話を聞いたことがあったティレックス、
もしかすると、本当に戦争になってしまうのかもしれない、そうなったら――アルディアスはどうなってしまうのだろうか。
「それと、どうやらディスタード本土軍の様子もなんか変らしい」
ディスタード帝国と言えば、以前にはディスタードのマウナ軍がいて、
アルディアスとは激戦を繰り広げた敵でもあった。
しかし、ディスタードのガレア軍の助けによりマウナ軍を撃破、
今はアルディアスもガレア軍の領地という扱いではあるものの、
以前と変わらぬアルディアスの統治を続けたままの状況でなんとか国を保っているのである。
そして、今度は本土軍――連中はクラウディアス王国への進撃を企てているのだけれども、
それも何度も失敗に終わっている、そんな中でまた動きがあるのだろうか。
「よくはわからないけれども、とにかく確認中だ。
きっかけは、本土軍の軍艦がアルディアス付近に接近していたこと、
何をしに来たのかはわからないけれども、実際に目撃情報があったからな、
なんというか、とにかく怪しいぜ」
ファイザがそう言うと、事務作業をしていたチェリが続けざまに言った。
「そうそう、そういう話だったらアール将軍様に訊いた方がいいかもね!
もしかしたら、何か知っているかもしれないし、今は戻っているんでしょ?」
確かに、チェリの言う通りだった、ティレックスは考えていた。
ガレアにつくと、そこには帝国とは思えないようなほどの美しい街があった。
「これがガレア!? リファリウスのやつ、少し見ない間にこんな都を作り上げるとは――」
そこには民家や商店、軍関係の施設も含めて赤いレンガ調の建物が並び立っているという光景だった。
未だに工事は進められているのだけれども、それでも、現状の状態でも十分すぎるほどの光景だった。
また、何と言っても花壇に植えてある色とりどりの草花も見事としか言いようのないものだった、
まさか、帝国領内にこんな美しい光景が広がっているとは、ティレックスはとにかく驚いていた。
「お待ちしておりましたティレックス! こっちにどうぞ!」
ガレアを歩いていると、そのうちガレア軍本部にたどり着き、そこにはユーシェリアが丁寧な物腰でそう言った。
「ユーシィ!」
本部内の内装もグレードアップし、なかなか美しい内装へと変貌していた。
その光景に圧倒されていたティレックス、ユーシェリアはそれを察して訊いてきた。
「ふふっ、どう? ガレアも見違えたでしょう?」
確かに――なんとも言えない、息をのむような光景だった。
そして、ユーシェリアに応接室へと促されたティレックス、
少し待っていると、そこにすぐさまご所望の人物が現れた。
「あんたも帰ってきたばかりだというのに、わざわざ悪かったな」
ティレックスの問いにアール将軍こと、リファリウスは言った。
「まあね、だけど今回については止む無しというところだろう、
まさか本土軍が動くことになるとは、面倒ばかり起こさないでほしいもんだ。」
リファリウスは愚痴っぽく言うと、話を続けた。
「ガレア軍の調べだと、どうやらアルディアスの町周辺に本土軍の部隊が上陸したっていう話らしい。
何をしたいのかわからないけれども、キミが考えている通り、アルディアスはガレア領だからね、
事と次第によっては本土軍に抗議をしなければいけない案件だ。
本来ならベイダ・ゲナに抗議のメールを送ることがあってもいいんだけれども、
まあ、本土軍は例によって例によるから一旦保留中なのさ。まったく、何を考えているのやら。」
リファリウスはヤレヤレといった態度でそう言った。
ガレア軍はディスタード・カーストの中でも最下層の存在、つまり、ナメられている訳でもある。
抗議を見送りにしているのもそういった理由があるのだろう。
しかし、現状、対外的に勢力を伸ばしているのは主にガレア軍だから、
他の国の力を借りれば強く言えるのではないのだろうか、そう思ったティレックスだが、
「確かに、それもありと言えばありなんだけれどもね。
でも、残念なことに、それはそれで戦争を招く要因にもなりかねないのが事実だ。
戦争はしたくないし、たとえ戦争したとしても他の国を巻き込むのも避けたいところだ。
キミも知っているかもしれないけれども、東のアズーラという国、
先日ディスタードの本土軍が侵攻してすっかり植民地化してしまった――」
ディスタードのはるか東にはユーラル大陸があり、本土軍は西から上陸し、次々と侵略をしているのだという。
アズーラはその大陸のほぼ中央部にあり、つまり、その大陸を半分支配下に置いてしまったということでもある。
「ユーラルといえば、資源も豊富だからな――」
と、ティレックスは言った。確かに、戦争の物資を補給するうえではまたとないような土地柄でもあった。
逆を言えば、それだけの場所に勝ったというのだから、本土軍の戦力もバカにできないものである。
「すべてはクラウディアスを落とすためだろう、そのためには他の国を落とすことも辞さないということさ。」
リファリウスはやや呆れ気味にそう言った。
その日はそのままガレアで泊まることにしたティレックス、ユーシェリアの部屋で夜を明かすことにした。
「……まさにエリート隊員並みの扱いだな」
まるでホテル仕様並みの寝室だった。
「えへへっ、まあねー! だけど、ベッドが2つあってもだーれも来ないから寂しいんだ」
確かに、2つあるのには気になっていた、それもそのハズ――
「何故2つ? 1つでいいんじゃ?」
「だって、ティレックスが来てくれた時に寝床がないなんてイヤでしょ?
だから、2つ置いてほしいって頼んだのよ」
まさかのティレックス用だった。
「俺の!?」
ティレックスは焦りながらそう言うと、ユーシェリアは優しく答えた。
「なんていうかさ、昔に戻りたいよね、ティレックス!
今は今でいいんだけどさ、でも――やっぱり、
私が拉致されずにあのままティレックスと一緒にいれたら、どうなったんだろうね――」
ユーシェリアは感傷にふけながらそう言った。
確かに、ユーシェリアの気持ちは痛いほどわかるティレックス、
ユーシェリアは幼馴染、昔からすごく仲がよかった。
昔に戻れれば、仲の良い2人は仲の良いままでいられるだろうか。
いや、今からでも遅くはない、ティレックスは考えた。
「なあ、ユーシィ――」
ティレックスはそう言うと、ユーシェリアは可愛げに「なぁに?」と答えた。
「たとえ何があっても俺たちは一緒だ。
今だって、こうして俺とユーシィは一緒にいる、そうは思わないだろうか?」
そう言うと、ユーシェリアは出し抜けにティレックスに抱き着いた。
ティレックスはドキッとしたが、自分の肩が濡れてきていることを感じた……涙?
ユーシェリアは泣いていた。それを察したティレックスはユーシェリアを片手で優しく抱えていた。
「ティレックス、ありがとう――」