「と、いうことなんです――」
アールは息をのんだ。
「えっ、それってもしかして――」
するとラミキュリアを拉致した連中が彼らのもとへと向かってきた。それにすぐさま気が付いたジェタは――
「てっ、敵襲!」
しかしアールがそれを止めた。
「いや、連中は今や敵ではないから大丈夫だよ。」
「え、どうしてですか? 連中はラミキュリアさんを――」
「いや、ここはラミキュリアさんに任せておくんだ。」
ええ、今は任せてください――ラミキュリアはそう促した。
「ラミキュリア女王様っ! これがその鍵です!」
「ラミキュリア女王様っ! 鍵を3つそろえてきました!」
「ラミキュリア女王様っ! これで”テレフ・テリトリ”の本部へと侵入することができます!」
連中はラミキュリア様に向かって跪きつつ、3つの鍵を差し出していた。
「よくやったわ。なら、次はその鍵を使用するところへと案内しなさい」
「承知いたしました、ラミキュリア様っ!」
彼らは鍵を手に、そのまま例の電波の途切れた場所付近へと赴いた。するとジェタが再び口を開いた。
「ラミキュリア……女王様!? ど、どうなっているのです? 彼ら、敵ではないのですか?」
「言うなれば彼らはラミキュリア女王様のファンで、彼女のためなら死をも厭わないだろうね。」
アールはそう言うとジェタは呆れていた。
「……私、男の人って、よくわかりません」
「知ってる、私もよくわかんない。
まあいいさ、とにかく今は連中の後についていけばいいことは確かだよ。」
「……わかりました。総員! 後に続け!」
ジェタはそう言うと、他の隊員はジェタと共に連中の後ろをついて行った。
その場はアールとラミキュリアだけになった。
「本当にごめんなさい、心配をかけてしまって――」
ラミキュリアはアールに対して謝った。しかし――
「いやいや! キミが無事でなによりだよ、本当に良かった――」
そしてアールは態度を改めると、今度は楽しそうに言った。
「というか無事も何も、ラミキュリアさんもイケナイ人だなぁ♪
彼ら、誘惑魔法によってラミキュリアさんの虜になっちゃったのか♪」
あら♪ バレちゃった♪ ラミキュリアは楽しそうにそう答えた。
生来のプリズム族の身体を手に入れた結果、彼女はその血から繰り出される驚異の能力、誘惑魔法を会得したのだった。
その色香を感じたものはたちまち彼女の下僕となり、彼女の手足として使役される運命をたどることとなるのだ。
と言っても誰にでも有効というわけではない。
基本的には相手の精神力に訴えかける能力なので、その程度が使い手自身よりもある程度劣っているほど効果が出る。
さらにそのうえで有効な相手として、理性のない相手や彼女にもともと気があるような男についてはもはや特攻と言わんばかりに効果を発揮するのである。
しかも、彼女のペンデュラムの技で縛られている場合は妖気が集中するので効果も非常に高くなるわけだが、
当然、元々のラミキュリアの装いが異性の気を引きやすいことも相まってとても効果が高くなることは言うまでもないだろう。
だからこそ、アールはラミキュリアにはこういう格好をするように勧めていたのである。
結果論ではあるがまさにこうなることは予定調和、”悩殺担当の誘惑美女”の看板に偽りなしといったところである。
「あっははは! 流石に悩殺担当も伊達じゃあないよね!
そういうわけで今日から新しい二つ名をキミに与えよう! その名も”男使い”だ!」
男使い?
「魔獣使いは魔獣を操るからそう呼ぶし、魔物使いは魔物を操るからそう呼ぶ。
魔法使いも魔法を操るから魔法使いと呼ぶよね。ということはつまり、ラミキュリアさんは――」
「……男を操るから男使い……ですか?」
”男使いラミキュリア”はこうして降臨したのだ。
「そしてアール将軍も悩殺すれば、キミは晴れてアール使いだ!」
そういうのはちょっと……ラミキュリアは遠慮がちにそう言った。
「ああそっか! 将軍使いのほうがいいよね!
思えば結果的にダイムだってうまく翻弄したもんね!」
いや、そうじゃなくて……言われてみれば確かにそのとおりだが。
そしてあの後、”テレフ・テリトリ”の本部は”テレフ・テリトリ”の勢力自らの手で解体されるに至った。
「なあんだ! 私らの出る幕はなかったようね!」
ジェタは楽しげにそう言った。
「すごいですねラミキュリアさん! とうとう男を操るところまで来たのですね! 私、尊敬します!」
シレスは尊敬のまなざしでラミキュリアを見つめていた。
「そうとも。敵が男しかいなければ敵がいないも同然なんだ。」
アールがそう言うと、そんなことありませんからとラミキュリアは全力で否定した。
「ふふっ、それにしても――元男だったハズのラミキュリアがその美貌ですべての男たちを手玉に取るとは何とも皮肉な話だ」
ディライザは笑いながらそう言った。
彼女の言っていることについてはむしろラミキュリアにとっては自慢でもあった。
そもそも”こんな女が男なわけがない”などと言われながらこれまで数多の男たちを手玉にとってきたラミキュリアとしては今回のことはあくまでそれの延長でしかなかった。
そのため、今回の出来事はラミキュリア自身にとっては別に変ったことでも何でもなく、案外普通のことのように思えた。
「ですよね! これっていわゆる騙しってやつですよね! なのに……男の人ときたら――」
ジェタは呆れていた。そしてアールが話をまとめた。
「誘惑魔法というのは元々騙しなんだ、”惑わす”っていうぐらいだからね。
だけどこれに関しては騙しているほうが悪いんじゃあない、騙される男が悪いんだよ。
むしろ、ラミキュリアさんにだったら騙されてもいいという男が既に何人も存在するぐらいだしね。
そう考えるとラミキュリアさんは余程魅力的な女性であることの裏付けになっているわけだね。」
騙しても相手がそれでよければそれでいい。
騙されたら後の祭りだけど、騙したのがラミキュリアだったらそれでいい。
何よりラミキュリアになら騙してもらいたい。
騙し手のラミキュリアは生来のプリズム族による癒しの精霊様の慈愛に満ちた癒し。
ラミキュリアは誘惑魔法の使い手になったことを通じてさらに前向きになれたのだった。
こうして、”悩殺魔女ラミキュリア”は誕生したのだ。