「みなさまお疲れ様です! 私はラミキュリア=クアルンキャッツと申します!
ガレア軍本部受付部兼情報部所属となりました! よろしくお願いいたします!」
これは、彼女がディスタード帝国のガレア軍本部で初めての仕事を行うことになった時のエピソードである。
それはディスタード帝国のガレア領にあるガレア軍の本拠地である軍本部のエントランスでの出来事だ。
そこには彼女のほかに、アール将軍やガレア軍の一部の兵隊が集まっており、彼女の話を聞いていた。
兵隊と言っても忙しいせいか、その場は10人程度とかなり少数だった。
「というわけでこの度はこの2人が我々の新たな仲間になったんだ、みんな改めてよろしく頼むよ。」
アールはそう言った、2人……ラミキュリアのほかにもう1人が挨拶していた。
そちらも女性で、名前はローナフィオルと言う。
「みなさんよろしくお願いします! よろしくお願いします! アール将軍様★」
ローナフィオルは調子よさそうにそう言った。しかし、その一方でラミキュリアは疑問を感じていた。
「それにしてもアール将軍様、私はこんな格好ですが――」
彼女の服装は肩と大きなバストが形成する胸元を大胆に露出したセクシーで可愛げな感じのトップスと、
ボトムスは短くて可愛らしいフレアなスカートと全体的にセクシーだが可愛らしい、
男の目を引きそうなコーディネートでまとまっており、
それゆえか服装の規制に緩いガレアの中であっても周囲から若干浮いていたのである。
「いいよ、全然いい。第一うちは服装に関してはフリーだから……フリーというか、
自分の能力を最大限に引き出してくれるように考えてもらわないと困るから、
服装にはそういう意味できちんと気を付けてもらわないとね。」
「そう……ですか?」
「ラミキュリアさんはそういう格好、スキでしょ?」
「そ、それはそうですけど――」
「なら、いいんじゃあないのかなあ。
いや、むしろラミキュリアさんの場合はそうでないと困るかな。
なんていうか、こう……私は美女! 絶対的な美女!
360度どこから見ても美女! って感じでいてくれたほうが強さを感じるね。」
「そう思いますか?」
「うん、そう思うね、できる女って感じがする。
特にラミキュリアさんは”悩殺担当の誘惑美女”なんだから絶対その恰好のほうがいいと思う。」
そういうわけで彼女はアール将軍の言う通り”悩殺担当の誘惑美女”というポジションで落ち着くこととなる。
彼女が”悩殺担当の誘惑美女”となるまでには、それはそれは長くて遠くて果てしない道のりがあった。
「ラミキュリアさんって本当にきれいですよね!」
こういう風に言われるのも、
「ラミキュリアって目の保養になるな――」
こういう風に見惚れられるのも、
「ラミ姉さんはその方がいいよ! 私もラミ姉さんのこと応援しているからね!」
同時期にガレア軍に入ったローナフィオルからもそう言われ、
「私はそういうキャラではないからな。
ラミキュリアはラミキュリアで自分を磨き上げればいい」
「ディライザさん――」
「そんな顔をするな。アールからも言われただろう、ラミキュリアは美女でなければいけない。
正直、私としても羨ましい限りのスタイルだ。となれば当然戦闘の訓練に関しても厳しくしていくからね」
厳しい女戦士のディライザからも羨ましいと言われるほどになれたのも、全部全部――
「キミにならなれるよ、本物の美女にね。
そういうことでキミは今日から本物の美女だ、よろしくね、ラミキュリアさん。」
アール将軍様がいたからこそ。この命、アール将軍様のためなら惜しくはない――ラミキュリアは常日頃からそう思っている。
「ということでエイジ君、キミに調べてほしいことはほかでもない、ラミキュリアさんについてだ。」
「毎度お馴染みの安定の話の見えなさだな」
彼女は今度はアール将軍に連れられてエイジのいるガレアの研究所へと赴いた。
アールは前もってエイジには伝えてあるのだが、
毎度のことながら突拍子もなくよくわからないことを言われているので、
エイジとしては腑に落ちない点だらけで”少し”困っていた――
何故”少し”なのかというのは――毎度のことなのである程度慣れているということである。
なお、ラミキュリアがこれからされることについてはすでに本人も了承済である。
いや、むしろ本人からの希望もある程度含まれていた。
「まあまあいいから。
とりあえず、手始めに調べてみてほしいことについてはメールで送った通りだから、
その後についてはエイジ君の独断で考えてくれるといいかな。そんじゃバイバイ。」
アール将軍はそう言いながら去ろうとしたが、去り際にこう言い残した。
「ああそうそう、なんたって美女の秘密だからね、だから調査の結果については他言無用だ。
それから、いくらラミキュリアさんがキレイだからと言って手を出したりしないように。以上だ。」
アール将軍は今度こそ去った。
「いつものことながらアールのやつも好き勝手言ってくれるよな」
「アールのやつ、ですか?」
アールはディスタード帝国の四将軍の一人でこのガレア管轄を任されている最高責任者、
”アールのやつ”なんて言う扱いはもってのほか、だからラミキュリアはエイジのその呼び方については違和感があった。
「あいつ、いつもそうなんだよ、帝国の雑用時代からなんだが……」
それを聞いてラミキュリアは思い出した。
「そういえばエイジさんってアール将軍様から同期だって聞かされましたけど――」
エイジは顔をしかめていた。
「アール将軍様、将軍様って、あんた余程あいつを敬愛しているようだな」
「はい! アール将軍様は私の憧れ、私の目標――」
ラミキュリアは興奮気味にそう言った。
「あんたがそう思う理由はわかるけどな、なんとなくだけど」
なんとなくわかる? まさかエイジは――ラミキュリアには思うところがあり、手を口に当てて何やら考えていた。
それを察したエイジは頭を掻きながら答えた。
「……後で面倒したくないからその解を先にしとくか。
知っているよ、俺はな。それ以上は言わないけど。
最初は驚いたが、知っていれさえすればあいつの行動の説明が全部できそうだ」
「そう……ですか」
何の話かというと、アール将軍自身も何かしらを抱えているということである。
「それにしても、なんでラミキュリアさんを調べろということになったんだ? 単なる将軍指令?
そもそも当の本人が乗り気みたいだが――心当たりでもあるのか?」
ラミキュリアにはいくらでも心当たりがあった。
確かに将軍指令ではあるけれども、彼女自身が知りたいことでもあった。
「ふーん、そうか。でも……変だな」
何が変なのだろうか、ラミキュリアは訊ねた。
「いや、確かにメールの内容を確認したんだけど、
ラミキュリアさんを生物学の観点から考えた調査をしてほしいみたいな内容なんだ、どういうことだろう?
ついでに前もってラミキュリアさんのサンプルも送られてきていた、一体どういうことだ?」
と、エイジは心配そうに言うが、それがラミキュリア自身が気になっていたことであった。
そう、彼女は自分自身がどうなっているのかを知りたいらしい。
「……全部承知の上ってことか、それなら言うことないな、さっさと始めようか」
ラミキュリアの意志を受け取ったエイジはさっそく行動に移った。