エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第2部 夢の王国の光と影 第4章 新たなる希望

第56節 若きクラウディアス

 フィジラス研究所の所長の養子にはあの時の2人の孤児のうち、起きていたほうの女の子が選ばれた。 選ばれた理由、それは本人の希望だったそうだ。
 その娘はとても活発で、当時はじっとしているのがニガテだったようだ。 だからなのか、お姫様として鎮座しているよりはそれよりも自由が利くほうの生活を選んだということらしい、 幼いながらに判断力はしっかりしているようである。 その彼女、名前はリアスティンの希望によりレミーネアと名づけられた。 そのレミーネアと言う名前はクラウディアスは初代女王陛下の双子の姉の名前で、 妹を守るため常に妹と共に行動をしていたのだそうだ。
 そして、その妹の名前はエミーリア――そう、あの時の2人の孤児のうち、 寝ていたほうの女の子は初代女王陛下エミーリアの名前を名付けられたのだった。そしてその娘により――
「おめでとう、ラシル! これであなたは晴れて騎士の団長です!」
 アルニス=トアス=ラシル=レグスト、みんなからは”ラシル”呼ばれて親しまれている彼、 若くして騎士団長へと就任することになった、何故なら――前任者はかなりのご高齢で引退をした。 そのため、新しい団長となるための就任式にて、女王陛下より団長の任を与えられていた。
 そう、彼はリアスティンの側近でもあった騎士団長アルドラスの息子のアルニスである。
「ありがとう――いや、ありがとうございます、女王陛下! これで――」
 だが、
「いいよラシルー! 私とあなたの仲じゃん♪ いつもどおりでいいよ!」
 お互い幼馴染同士でいつも仲良しだから互いに変に気を使うような間柄でもなかった。
「まったくだぜー。あとは女王陛下と結婚して、早いとこ国王陛下になってこの国をもっともっといい感じにしてくれよ」
 ヴァドスはそう茶化した。ヴァドスも父親のサディウスの跡を継いで弁護士になっていた。
「そっ、そんな! なっ、なにを言って――」
 ラシルは慌ててそう言った。ラシルはエミーリアとはとても仲がよくいつもこのように冷やかされていた。 ラシルについては御覧の通りだがエミーリアはただニコニコと笑っているだけであり、 そのセリフには満更でもないような様子である。

 しかし、やはり若いということもあってかラシルでは少々不安なようで、 みんなからはちょくちょく冷かされていた。
「ラシル、ちょっと話聞く」
 ラシルはお城の中を巡回しているところで目の前に現れたカスミに呼び止められた。
「なんです? カスミさん?」
 彼女は背が低いため、彼は少しかがんで訊き返した。
「……引き受けて大丈夫?」
「え? ええ、まあ。これは僕にしかできないと思っていますので!」
 彼は女王陛下と同じまだ20歳だった。 不安に思うのも無理はない、確かに実戦経験も少ないのでなおさらだ。 彼はそれなりに英才教育を受けている、それだけだ。
 そう、それだけということは――クラウディアスは今や”過去とは違った別の問題”を抱えていたのだった。
「ふうん。あそう、まあいい」
 言い方があからさまに引っかかりのある言い方だった。カスミはそう言い捨てるとトボトボと歩いて消えていった。
「カスミさん、勘弁してくださいよ――」
 ラシルは項垂れながらそう言った、カスミはほぼ毎日のように彼にこの質問を繰り返していたのである。 ラシルにしてみればそもそもあまり質問されたくない内容だったことは言うまでもない。

 それから程なくして、外部からこの国に接近してくるものが現れた。 それはとあるハンターで、自分の名前を出すことでクラウディアスへの渡航が可能だったという。
「これがクラウディアスか、俺が思っていたのと全然違う国だな――」
 かつての強国はもっとガチガチに守り固められているような国かと思っていた彼、 だけどその実態は非常に開かれた土地で、ほかの国に侵略されたら押し潰されてもおかしくないような感じだった。 しかし、そこは流石に召喚王国、幻獣の使い手という別の守り手がいることを忘れてはいけない、 だからこそ強国にのし上がったのだ。
 ところが、今は”過去とは違った別の問題”により、 見た目通りの”ほかの国に侵略されたら押しつぶされてもおかしくない”という状況だった。

「エミーリアさ……エミーリア! なんか使者というのが来ているけど――」
 ラシルはそのハンターの男というのに出会い、用件を訊くと、エミーリアを呼んだ。 いつものように呼び捨てないと返事しないとそっけなく言い返されたことを思い出し、 慌てて”エミーリア”と言い直していた。
「はぁい♪ ラシルー、なあに?」
 エミーリアは可愛げに嬉しそうに返事をした。2人は話を続けた。
「うん、それがどうやらスクエアから来たハンターみたいなんだけど――」
「へえー、お外の人だなんて珍しいね?」
 クラウディアスは今や完全に鎖国している状態で、 外の国の人は中に入れないのはクラウディアス内部の人間でも当然知っていることである。 それなのに一体どうして――だけど、要件を軽く聞いたエミーリアはとりあえず会ってみることにした。

「初めまして女王陛下。 スクエアの北にあるエンブリス神殿からの依頼を受けましたスレア=スタイアルと申します」
 この名前にはみんなが覚えがあった。 スタイアル――そう、かつてはこの国の騎士をやっていたセディル=スタイアルである。つまり彼こそが――
「そうか、キミはセディルさんの息子さんか!」
 と、ラシルは言った。
「セディルだって!? 母を……知っているのか!? そうか、やっぱり母はここで働いていたのか――」
 スレア自身は今まで半信半疑だったようだがここへ来て確信したようだ。
「それで、エンブリス神殿からの依頼というのは?」
 ヴァドスは訊いた、しかし――
「いや、それがよくわからないんだ。 なんというか、とにかくクラウディアスのために行ってほしいとか、そんな感じの内容なんだ。 俺の……自分の名前を出せば、クラウディアス行の船に乗せてもらえるということでここまで来たんだけど――」
 スレアは困惑していたが、いや、これはそう言うことなんだ――エミーリアを含め、クラウディアス重鎮群は察していた。

 それから1週間後、スレアはクラウディアス騎士団の副団長へと就任していた。 本来ならクラウディアスの騎士になるという選択を取ることはなかったのだけれども、 スレアとしては一つの目的があったため、騎士になるというよりはここに留まる選択をしたのである。 騎士団の副団長になったのはあくまで事のついでというものである。 人は悪くないし、何より国がいいので、スレアとしても申し分なかった。 母はここで働いていたようだが、母は何処に――それがスレアの目的である。
「ラシル、大丈夫か?」
「あっ、ああ、平気さ――」
 ラシルはスレアとの剣稽古でコテンパンにされていた。 その傷はまだ癒えておらず、一日休養を取ることにしていたのだった。
「スレアは強いな。僕の代わりに団長やってもいいような気がするよ」
 しかし、スレアさんは首を横に振った。
「そうだな、確かにラシル、お前は弱すぎる。 だけど団長をやるやつはこの国のことをしっかり理解していたほうがいいと思うし、 なんたって次期国王となるようなやつが俺より下にいたらいけない。そうは思わないか?」
 スレアにも冷やかされ、ラシルがさらに困惑することになった、彼の悩みは尽きない。