アーシェリスらは事情を改めて訊こうとあの”おじ様の”元へと向かっていたが、
そこにはリスティーンがいて既に話をしていた。
「骨を折ったわけではないみたいで何よりです」
「単なる捻挫、ちょっとぐらい高い所から飛び降りたぐらいで骨なんて折らないわよ。」
ちょっとどころの高さではなかったとか、あんなことして単なる捻挫で済むほうがおかしいとか、
言いたいことはいろいろとあるけれども結果がすべてを物語っているので、この際もういいことにしよう。
「ところで、どうしておじ様たちがここに?」
そもそもこれがどういう状況なのだろうか? 助かった……でいいのだろうか? アーシェリスは気になっていた。
「ええ、実はディスタードのガレアから、あなた方――というよりはアルディアスの一団を救援してほしいとの要請がありましてね」
つまり、本来であればディスタード艦が来る手はずだったのだが四方山の事情で来られなくなったため、彼らが来たらしい。
つまり、リスティーンはディスタード軍が助けに来ることを見越していたということらしい。
しかし、助けに来たのはディスタードではなく彼ら――とはいえ、彼女にとってはどちらでもいいのだろう、想定の範囲内らしい。
「あなた方は一体……」
バディファが訊ねるとリスティーンが代わりに答えた。
「彼が”シャナン”おじ様よ。」
バディファは驚いた。
「ま、まさかあなたが”碧眼のシャナン”だというのか!?」
「おやおや、私の名声はエネアルドまで届いておりましたか、”流転のバディファ”殿。
それから、あなたは”剛鬼のレンティス”殿ですね! 本当にお久しぶりです」
と、今度はレンティスに向かって話した。
「本当に久しぶりだなシャナン、行方不明になったと聞いていたが戻っていて何よりだ。
シャナンがいるということは、これはクラウディアスの船ということか?」
「まあ、そういうことになりますね」
クラウディアスだって!? そんな大国の一団が助けに来たというのか!? アーシェリスたちは驚いていた。
「それにしてもこの船、本当に白く塗ったのね。」
リスティーンがそう言うとシャナンが優しく言い返した。
「ええ。でも、全部あなたのアイデアじゃないですか」
「えっ、そうだったっけ? 確かにそう言ったような気もするけれども――
でもまさか、本当にこんなに真っ白に塗るとは思わなかった。」
つまりこの船はディスタードの船を改造し、さらにクラウディアス側で真っ白に塗装したものらしい。
アーシェリスはリスティーンに聞きたいことがあった。
「何よ?」
「いや、その、あの――」
「ああ、ガラディウシスのことね。
ガラディウシスっつーか、あんたがいつも一緒にいたあの幼馴染の行動がわかったってわけよ。」
それはフェリオースのことだろうか、そもそも彼女が何故それを知っているのだろうか、アーシェリスは問いただした。
「細かいことは気にしないの。それより彼のこと聞きたくないの?」
……ぜひ聞かせてくれ、アーシェリスは言いたいことはたくさんあったが、今はとりあえずそう言うしかなかった。
「そうこなくっちゃ、憶測なんだけどね。」
そこまで言っといて憶測かよ、アーシェリスは呆気に取られていた。それに対してリスティーン、
「まあまあ、可能性としては濃厚、訊けばうなずける話だと思うよ。」
まあ、そう言うことなら――とりあえず、アーシェリスは期待だけしておくことにした。
「フェリオースのお姉さんの話は訊いたかな?」
それについてはこれまでもいろいろと訊いていたアーシェリス、
いろいろと言ってもアール将軍が情報を持っていて、
それをエネアルドのお偉いさんに渡したということ、
そして、そもそも行方が分からないということぐらいしかないが。
「うん、それがどうもね、”エクスフォス・ガラディウシス”に捕まったらしいのよ。」
その話にクレンスが参加してきた。
「フェレアお姉ちゃん、捕まっちゃったの!?」
「まあ、それだけならまだマシなほうだけど。」
人一人が拉致されて何がマシなほうだ。しかし彼女の話を聞いていけばいくほど事は深刻だった。
「確かに人一人が拉致されたのは面倒なことだけど、
問題はアール将軍が持っていたという情報が何故か”エクスフォス・ガラディウシス”に筒抜けだったらしいことよ。
一体、何がどうなっているのやら。」
なんだって!? 今度はバディファが口をはさんだ。
「情報は秘密裏に扱われているのではなかったというのか?」
そんな話を聞いている中でアーシェリスは思い出した、エネアルド政府には気を付けたほうがいいよって言う話である。
あれは確かアール将軍から注意されたことでもあった。まさかそれが――
「しかし、その情報はどこで手に入れたの?」
今度はラクシスが出てきた。
「うん、直接本人から訊いたのよ。」
”本人”って誰だよ、何人かはそう思った。
「とは言っても”フェレアのケース”だと――直接フェレアの名前を指したわけじゃあないけれども、
コルシアスのやつ、”エルフェリテスの女”を捕まえたことを得意げに言っていたから、
これは十中八九、フェレアを捕まえたってことよね、”エルフェリテス”なんていう稀有な血筋なんてめったにいないしさ。」
”本人”とはコルシアスのことらしい。ん? ”フェレアのケース”というのは?
「ああ、うん、それが漏れた情報ってわけじゃあないけれども。
問題の漏れた情報というのは、”魔剣グリフォン・ハート”にまつわる情報そのものよ。」
どうやら話がつながったようだ。
ロバールと”エクスフォス・ガラディウシス”、接点があるのはもはや言うまでもないだろうけれども、
”魔剣グリフォン・ハート”の持つ驚異的な力の開き方というものが手順として存在しているようだ。
秘密にしておくほど難しい仕掛けではないらしいのでアール将軍は仕掛けを解かれるのを未然に防ぐため、
その情報をエネアルド政府に託し、注意を促すことで事なきを得る――その予定だった。
しかし、アール将軍が託した手順がそっくりそのまま”エクスフォス・ガラディウシス”に漏れてしまっており、
状況が悪化してしまっているという。
実際、その”魔剣グリフォン・ハート”の力を解放する手段を発見したのはフェレア自身だったのだけれども、
それがあまりに危険な力だと分かり、ロバールの暴挙を止めるためにエネアルドを飛び出したという。
もちろん、そのためには助けが必要だったのでディスタードのガレアを頼ったという。
ガレアに情報があったのはそういうことらしい。
しかもアール将軍自身が危険な”魔剣グリフォン・ハート”の解放手順を安全性を考えた解放手順としてテコ入れをしたらしく、
その情報を含めて一緒にエネアルド政府に伝えたというらしいが、
なんと、その情報がそのままガラディウシスに漏れてしまっていたことからエネアルド政府に気をつけろという話になった経緯があるのだという。
しかし、残念ながらフェレアは”エクスフォス・ガラディウシス”に捕らえられてしまい、
その情報もすぐにフェレアが出立したガレアにも届いた――そう、これがフェリオースが動き出した要因であり、
姉が人質となっていることを知ると”エクスフォス・ガラディウシス”に加担せざるを得ない状況となってしまったようである。
リスティーンから訊いた話を総括すると以上である。
そうしたら次はどうするか――魔王、つまり”エクスフォス・ガラディウシス”の拠点を探すか、それともロバールを追うか。
常に移動しているらしいロバールを探すよりかはポイントが固定されている拠点――つまり”エクスフォス・ガラディウシス”の拠点を探すことが先決だろう、
エクスフォス組はみんなそう考えた。