またある日、アーシェリスはアール将軍が呼んでいるというので再びガレアに向かっていた。
しかし、呼ばれたはずのその日は周囲が非常に慌ただしく動いており、渡航も制限されていた。
それもそのはず、なんと、セラフィック・ランドと呼ばれる地域の一部が消滅したということで、
誰もがおびえている状況である。
そしてそれにより、かの召喚王国とも呼ばれるクラウディアスに魔物が襲来し、さらに事態は混迷を極めることとなった。
ルシルメアから軍艦が出航するまでにも非常に長い時間を要しており、予定よりも大幅に遅れてガレアを出港――
気が付いたらガレアに到着するまでに1週間もかかっていた。
アーシェリスはガレアの本部で数週間を過ごしていると、ある日にようやくアール将軍が来て話をすることになった。
まあ、このような状況で遅くなるのは無理もないので、その点だけは目を瞑ることにしたアーシェリス。
そして、アールの傍らには見慣れない男の姿があった。
「こちらはティレックス君、アルディアスのルダトーラ出身なんだよ。」
「……はじめまして」
なんと! この人物こそがあの月読式破壊魔剣術の使い手のティレックスだというのか!
アーシェリスはすごく驚いた、何に驚いたかというと、彼がほとんど同い年ぐらいである点だった。
「とりあえず、まずはお互いに自己紹介でもしあってくれたまえ。」
アーシェリスもティレックスに挨拶をした。
「そんなに簡単でいいのかな? まあいいや、積もる話はおいおいにでも。
とりあえず、ティレックス君にはいろいろと用事を済ませてくれるようにと段取りも任せているから、
アーシェリス君も彼にいろいろと聞いてみるといいよ。
さて、そういうわけで私は忙しい。もう用は済んだからこの部屋からさっさと出た出た。」
部屋の外からラミキュリアさんが現れると、ラミキュリアさんに促されるままに外に追い出された。
なんなんだよ、人のこと呼びつけておいて――用が済んだら「さっさと出てけ」かよ、アーシェリスは憤りを感じた。
「あの野郎……」
「おたくも苦労してるんだな」
ティレックスが口を開けた。
「苦労? 今のことか?」
「用があるからって来てみればこのざまだ。
まあ、俺にしてみれば――いつも通りと言えばいつも通りの展開だから特段何がどうということはないけどな」
アーシェリスはティレックスと気が合いそうだと感じた。
「本当にあのレイリス・ディストラクションの使い手なのか!?」
アーシェリスとしては、やはりとてもそうには思えなかった。
「うーん、間違ってはいないけどな……」
やはり使えるには使えるけど例によって諸刃の技であり、行使するのはかなり大変なことらしい。
アーシェリスはティレックスからいろいろと話を訊くことにした。意外な事実を知ることになった。
とりあえず、お互いの認識としてはアール将軍とリファリウスは同一人物であることは既に把握しているため、そのうえで話を進めた。
「リファから聞いたんだけど、どうもここのディスタードの皇帝と、エクスフォスのロバールというのは接点があるようなんだ」
なんだって!? アーシェリスは驚いた。
「リファが言うには利害が一致――つまり、あくまで協力関係という感じらしいが、
どうも皇帝というやつがあんたらの媒剣の技にも注目しているらしい」
はあ、それは光栄なことだ、アーシェリスはそう思った。
「そして、当然といえば当然の流れなんだが、やっぱりあのシェトランドにも目をつけているらしいぞ。
シェトランドに目をつけているというとセイバル人を知っていると思うけど、
ロバールとセイバルが接点を持つことになったというのはやっぱり皇帝の線なんだそうだ、
セイバルはシェトランド人の核を研究しているからな」
「全部繋がっているってことか。
そして、その結果によって俺たちエクスフォスとシェトランドとの衝突が起きた――
ワイズリアが現れて、仕組まれた戦いだという鶴の一声で戦争は終結した、そんな筋書きか」
すると、後ろからもう一人の男が現れて、話に参加した。
「実際にシェトランドには行方不明になっているのが現れている。
今んとこ行方不明になっているのは墓の内外に関わらずってところだ」
「まさか、ワイズリア!」
「よう! 小僧ども! また会ったな!」
「よくよく会うな」
ティレックスも面識があるようだ……と言いたいところだが、
ティレックスの顔は若干険しかった、何があったかはなんとなくわかる気がするアーシェリスだった。
「アールに会いに?」
「おお! そうだそうだ! ところでお前ら、ディルフォードのやつ見なかったか?」
どうやら、未だに行方不明のようである。
「それと、イールのやつも見かけねんだが――アーセレス、知らねえか?」
どいつもこいつも……いい加減俺の名前を覚えろとアーシェリスは憤りを感じていた。
「イールならケンダルス行くって言ってたけど」
「ケンダルスだと? なるほど、そうきたか……」
そうきたって?
「ケンダルスはこの御時世では超珍しい無魔導国家だ、
アーセウスには話したと思うがイールの妹ルイゼシアはほかのシェトランドに比べ、
核のパワーが3.7~8倍ぐれえあるから――」
確か、2.6倍って聞いていたような気がするけど、それは――
「無魔導国家っていうぐれえだからな、魔法の力に対しての防衛術や魔法を減縮させる技術には優れているんよ」
つまり魔法を減縮させる技術、ルイゼシアの核のパワーにも応用できないだろうか?
そうすればセイバルに狙われる要素はなくなるのではないか、そう考えてイールアーズはケンダルスに行ったということらしい。
「そういうことならまあいっか。
さてと、俺はリファの次にローナに会わなきゃいけないんでな、こう見えても結構忙しいのよ俺は」
ローナって誰だろうか? アーシェリスは首をかしげているとそれに対してティレックスが答えた。
「ローナフィオルさんなら先ほどここから発ちましたけど」
ワイズリアは驚いた。
「え、どこ行くとか言ってなかったか?」
「何だかよくわからないけど、とりあえずリリアさんに会いに行くとか言ってましたよ」
「リリアって、あの巨乳の姉ちゃんのとこに行ったのか――」
ワイズリアは頷いた。
「てことは一足違いだったようだな」
一足違い?
「リファもいねえ見てえだし、帰るぜ」
リファ……アール将軍がいない?
何をバカな、あいつは忙しいからって今この部屋から2人を追い出したばかりなのだが?
アール将軍の司令室の入り口はこの扉だけ、やつが出てきたというのなら2人は目撃しているハズなので、いないなんていうことはあり得なかった。
だがしかし――
「どうかされましたか?」
ワイズリアが司令室の扉を開けるが、そこには何故かラミキュリアしかいなかった。
「ああ、いや――こいつらがアール将軍がいるだなんて寝言ぬかすからな、
一応念のために確認させてもらっただけのことよ」
「ああ、そうでしたか。しかしご覧のとおり、将軍様はご不在です。
なんでしたら伝言を承りましょうか?」
ワイズリアは少し考えていた。
「――ローナが行ったってんならネルパートの北のリベルニアの件で間違いねえみてぇだな。
そういうことならいい、俺から伝えることはなにもなさそうだ――」
と、独り言をつぶやいていると、ワイズリアは思い出したかのように言った。
「ああそうそう、せっかくだからこう伝えといてくれや。
アールのやつ、相変わらずセクシーでキレーな女を部下に持っているなって話な」
「あら、そんな……ワイズリア様ったら、いやですわ――」
「あっはっはっはっは!」
ワイズリアは上機嫌のまま扉を閉めた。
「つーわけだ、リファいねえじゃねえか? 何を寝ぼけたことを言ってんだお前ら――」
ワイズリアはそう言うと去った。いや、じゃなくて、どうしてリファいないのだろうか。
確かにこの部屋の窓から出たというのであれば物理的には説明がつくけれども、
そうなると、どうしてわざわざ窓から出なければいけないのだろうか、その説明ができそうにない。