6人はガレア軍の輸送船に揺られながらエネアルドへと戻ってきた。
皮肉にも、彼らが大海原を満喫したのがこのタイミングだけだった。
とはいえ、それでも彼らの心境は複雑、エネアルドを飛び出してきたという浅はかな行動が身に染みていたあたり、
ほとんど感動というのはなかった。非常に残念である。
「お前たち! 心配かけさせて!」
ラスナ先生、シェルフィス人で、アーシェリスたちの担任の教師をしていた人だ。
学校は無期限の休校ではあるものの、組織自体は倒れているわけではない。
「……すいません」
「まったくだ、こんな時にお前たちは!」
ノートス、エネアルドの勇士の一人。
今は政治家の一人として国を動かしている。
そんなお偉方にもしかられて、流石に誰もが反省した。
それから数日後、アールから6人それぞれ宛てに手紙が届いた。
字がすごくきれいなのが印象的だった。
キミたちが帰る日、見送りが出来なくて本当に申し訳ない。
なかなか忙しくてね、将軍様の辛いところだよ――文面はそこから始まっていた。
「そうそう、ロバールの起こした殺人事件の件だけど、
身内だけにはきちんと教えたほうがいいと私から説得を試みたよ。
そうじゃなければあんまりだ。
とにかく、結構いろいろと面倒なことになりそうだけど、もし私に出来ることがあればなんでも言ってほしい。
キミたちだったらいつでもガレアに歓迎するからさ。じゃあ、内容は短くなっちゃったけど今回はこの辺で。
機会があったらまた会おうね。アール将軍より。」
ユイは読み上げていた。さらに続けた。
「p.s.ユイさんへ。例のアクセは気に入られましたか。
万が一壊れてしまったとかいうことであれば私に言ってください、すぐに直します。
それから例の話は内緒ですよ、お願いしますね。」
「俺のには追伸の類は書かれてなかったぞ」
アーシェリスは言った。
「私のにも追伸あったよー、デート楽しかったですってねー♪」
クレンスは楽しそうに言っていた。もっとも、あいつの性格上、男たちのは無くて当然である。
あれから数日が経ち、そういえば殺人事件の話が公表されたのかわからないが、どうなったのだろうか。
そう思っていたある日、アーシェリスとクレンスが突然フェリオースの家へとやってきた。
「被害者の身内って、お前らだったのか!?」
フェリオースは驚きながら言った。しかし、一番驚いているのはアーシェリスとクレンスのほうである。
「そうらしい――俺たちは事故だったとしか聞かされてなかったのに!」
アーシェリスは怒りをあらわにしていた。
その3人は聖山エネアルドの山頂、その社の近くまでやってきた。
社周辺は厳重にテープで張り巡らされており、誰も近づけないでいた、殺人現場はここか――
アーシェリスとクレンスは地面に伏せ、泣いていた。
あの事件は16年も前の事件――彼らが生まれた頃の話だが、
彼ら2人にも知らされていない理由があった、頂上の社に祀られているはずの聖器を盗まれたからである。
あの代物はエネアルドの歴史にとって非常に重要な代物であり、
こんなことがエネアルド中に知られれば大混乱になることは間違いないだろう。
「そうか、ロバール=ガレスト……アール将軍が言いたかったことはお前たちの両親のことか」
聖器を盗んだのも2人の両親を殺害したのもそいつだったのだ。
あれから日が落ちると、3人はフェリオースの家に戻り、また話を始めた。
「そういえば、フェリオースのお姉さんはどこにいるの?」
フェリオースには姉がいるのだが、5年程前から行方がわからない。
一応、アーシェリスの両親の話のこともあって、
姉のこともわかるんじゃないかと政府に訊いてみたのだけれども、どうやら本当に分からないらしい。
それからまた数日が経った。
今度はあの戦、シェトランドとエクスフォスが衝突したあの事件の真相が公表されることとなった。
もちろん、その話の裏にはアール将軍の後押しもあって実現したものでもあるが、
その反響はロバールの事件のとき以来だった。
まもなく、戦いが始まろうとしているかもしれない――それは多くの国を巻き込んだ大きな戦争である。
ロバールによる同族殺害事件、ガレアに限らずディスタード軍自体の軍備拡張行動も報道されている。
シェトランドもそうだ、セイバル軍との戦いがまだ決着しているわけでもないし、
それにディスタードはマウナ軍が南のアルディアスとも交戦中である。
さらにはディスタード本土軍が西のほうにある大国クラウディアスへと攻撃をしている話もある。
世界はどう傾いてしまうのだろうか。
「平和的に解決したいけども、なかなか受け入れてもらえない変な世の中になっちゃったからね。」
アールの言葉を思い出した。ごもっともだ、多分、どの勢力も止まってくれそうに無いらしい。
アール率いるガレア軍はともかく、ディスタードはマウナや本土軍はガレアとは正反対の思想の持っているらしいし、
国の中でもそういう対立があるんだな、なんだか複雑だ。
「なあ、クレンスはどこへいったか知らないか?」
数日後、アーシェリスがフェリオースの家に訪ねてきて訊いてきた。
「さあ? 何かあったのか?」
「少し前から姿が見えないんだ」
こんな時になんてことだ。
「なあ、悪いけどさ、俺はこのまま引き下がるわけにはいかないんだ」
いきなり何の話だといいたいところだが、何が言いたかったのかはわかる、
アーシェリスは両親を殺されたんだ、あのロバールに。
「それでどうする気だ?」
「とりあえず、また島を出る。今度はみんなのお墨付きだ。
だから、今度は安心して外へ出れるってわけだ」
「あまりムチャするなよな」
フェリオースはアーシェリスを見送ることにした。
「お前は一緒に行かないのか?」
アーシェリスに誘うが、
「俺はとりあえずいいさ。お前とは違うことを考えているからな」
違うこと、アーシェリスは両親の仇を探す目的があるが、
フェリオースはほかのことを考えていた。それは――
「アール将軍から俺あてに手紙が届いたんだ、姉貴のことについてな」
アーシェリスは驚いた、フェリオースも突然こんな話がやってきて驚いてたところだった。
「その情報はとりあえずエネアルドの政府に渡したらしいから、
俺はその経過待ち――この島から出られないってわけさ」
アーシェリスは頷いた。
「お姉さん、見つかるといいよな」
フェリオースはアーシェリスに「ありがとう」と告げた。
「ところでアーシェリス、これからどこへ行くつもりなんだ?」
アーシェリスは考えながら言った。
「そうだな、情報といったら帝国のほうが上だと思うから、まずはご厚意に甘えてガレアへ行くつもりだ」
あれ以来、6人はルシルメア港で名前を出せばガレアに連れて行ってもらえるらしい、
一応、注意しなければならないのが、相手がガレア軍の兵隊であること。
以前にアールが言った通りだけれども、相手がマウナ軍や本土軍だったら危険以外の何物でもないからである。
一応、その辺の見分けはつくようにはなっていて、アーシェリスは早速アール将軍のもとへ行くことにしたようだ。
「お前――アール将軍のことをあまり良く思っていないクセに」
「まあ……そうなんだけどな。でも――頼れるやつであることは間違いない」
アーシェリスもまた随分なことを言うようになったもんだ、フェリオースも負けてはいられないと思った。
「じゃあそろそろ船も出ることだし、俺はもう行くな」
「ああ、道中気をつけろよな」
あの時の戦、あれから6人は大きく成長した。
外の世界を出、いろんな人と知り合い、自分たちの浅はかさ、そして無力さを感じた。
しかし今度ばかりは違う……自分に出来ること、そして自分にしか出来ないこと。
あれから1年が経ち、今度は自分でやるべきことをするために6人は行動に出た。
今度は空回りでない、軍艦に忍び込むような無茶な行動ではない。
アーシェリスは仇の行方を追い、フェリオースは姉貴の行方を追う。
お互いれっきとした理由もあり、誰からも認められている行動でもある。
アーシェリスは捜すだけの旅、それ以上踏み込んだことはしない――たったそれだけの旅だ。
フェリオースのほうも姉貴がどこで何をしているのか、そのことが分かるまでひたすら待ち続けるのみだ。
だが、彼らのその旅の末路で、避けずにはいられない衝突が起こるなんて、
この時にはまだ知る由も無かった。