ドラゴン・スレイヤー ~新たなる未来~ 第8章 第176節

第8章 新たなる未来のために

第176節 禍気風

 あれから1年が経過した。カイルが旅に出てから実に2年も経過している。 ”邪悪なる者”の未来とのリンクが切れたとはいえ、 闇に汚染されていた期間がそれなりに長くなったこともあり、 魔物が活発化し、凶獣と呼ばれる存在が各地に出没、ハンターたちは対峙に追われていた。 グローナシア千年祭を間近にしてのこのタイミング…… 人々の間ではその良くない風向きから”禍気風かきふう”が流れているなどという話が出始めており、 何をするにしてもネガティブ、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに人々の活動は目に見えて衰えていくのであった。 そして問題は、それによってグローナシア千年祭の延期が決定したことである。
 問題は現在進行中の東の大陸、エターニスよりもさらに東にあるとされるドーアニスの魔族侵攻、 そしてそこから少し東にある”ゲルタニス島”までの侵攻――それが原因なのではと言われている。 無論、そんな因果関係などあるわけがないのだが、人々の間ではそれが定説になっており、 なんとも流されやすい人々の噂なのだろうか。
 いずれにせよ、とりあえず凶獣退治の後、魔族侵攻について収束を見せないことには話が始まらないのだろう。

 カイルは大けがをし、シェルベリア家に担ぎ込まれた。
「ふう――とりあえず、一命をとりとめたわね――」
 メロリーナは安心していた。
「ごめんな、心配ばっかかけてしまって――」
「私のほうこそごめん……私がヘマしなければ――」
「でもま、俺としてはメロリーナを助けられたんだからそれだけで十分だ!」
 カイルはそう言うとメロリーナはにっこりとしていた。
「魔法をいっぱいかけてあげるね♪」
 魔法――カイルは考えた。
「”フレア・ホワイト”とか言ったっけ? 聞き覚えのない魔法だよな?  固有魔法か何かか? 火属性系の魔法のようだから効果は高いんだろうけど――」
 メロリーナはにっこりとしていた。
「カイルもだいぶ魔法に詳しくなったね!  そうなんだ、”フレア・ホワイト”っていうプリズム族伝統の回復魔法なんだって!  私たちが癒しの精霊って呼ばれている通り、まさに暖かな癒しのもたらす魔法としてこれがあるんだって!」
 癒しの精霊様は妖魔種族の女……やっべぇな……カイルは良からぬことを考えていた。
「あれぇ? どーしたの? まさか……またイヤラシイこと考えてるんでしょ!」
 そ、そんなことは! カイルはそう言おうとするが――図星である。
「んもー♪ カイルったら、仕方がない人ねぇ♥」
 そしてそのまま2人はベッド・イン!
「カイルの傷が早く治るようすぐに癒してア♥ゲ♥ル♥」
 お幸せに!

 フレアとエメローナはエンケラスの近くで一緒に凶獣退治をしていた。
「こうやって、一緒に魔物を倒すのって随分と久しぶりね。」
 エメローナが握っているのはまさかのあの誘惑の武器”アヴァリスティ・ミスティック”と”アヴァリスティ・ディバイド”だ!
「歴史改変しているハズなのに、その武器だけ残っているのが解せないな――」
 フレアは悩んでいた。
「恐らくだけど、全部記憶されていることなんじゃないかしら?」
「記憶? 歴史改変しているのに?」
 エメローナは銃で魔物を撃ちつつ考えた。
「”邪悪なる者”を封じるために、未来のシルグランディア……ネシェラあたりが何やらしているんじゃないかしらと思って。」
 それもそうか、言ってしまえばその誘惑の武器はネシェラが作ったものだ、 それならもしかしたら何かをしている可能性さえあるということか。
「ところで――どちらの武器もちゃんと見ていないような気がするが?」
 フレアはフェイタル・ロアーで魔物を薙ぎ払いつつ言うとエメローナはそいつにトドメを刺しつつ答えた。
「言ってしまえば未来の時代の技術が使われている代物だからね、 この時代の者が見ることははばかられる行為よ。 つっても興味はあるから一応使わせてはもらっているけどね。 そうね――やっぱり、子孫も私と似たような使い手であるということははっきりしたってところね、 それがたとえアバズレビッチ女だとしてもね。」
 それに対してフレアは武器を片づけつつ言った。
「子孫と似たようなと言えば――ネシェラにとってクローザルは大のお気に入りだったようだぞ」
 クローザル……ネシェラは悩んでいた。
「私としてもイケメンでどこかしらにあどけないような印象の残っている男児を失うのはちょっとデカかったわね。 もっとも――彼はそもそもいないハズの存在だから――ま、子孫が引き取ってくれたというのならそれはそれで満足よ。 身体を返せって言ったけど、これなら返す必要もないしさ――」
 フレアは頷いた。
「隠してもばれるから正直に話すが……私としてもあれは好みの男だった。 だからシルグランディア一族の女と一緒になるという事になると、私としても歓迎だ――」
 本当にそれだけ? エメローナはそう訊こうとしたが、 そう言えば――フレアは”女”が消えているんだっけ、それはそれで悩みどころだった。
「フレア……いつか、自分のことを許してあげてね――」
 エメローナはそう心でつぶやいただけだった。
「なんだ? どうかした?」
「ん? ううん、なんでもない。」