ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第5章 冒険の果てにて

第129節 エピローグ・まだ終わらない

 ということで、フレアとエメローナの話へと戻る。
「ところで、エメローナ以外に記憶が弄られた者はいるのか?」
 エメローナはそう言われて考えていた。
「ええ、それがひじょーに言いにくいんだけど、 私のほかにはフローナル……つまり、フレアの記憶が弄られていたわね――」
 なんと、自分が標的か――フレアは考えていた。
「私とエメローナ……つまり、万物の創造手と運命の精霊を狙ったということか。 ということはつまり――」
「確実に何かあるわね――」
 エメローナはそう言ってから数秒ほど沈黙が流れると、フレアは訊ねた。
「……それというのは、もちろん、弄られた部分については取り除いてくれたということだな?  ちなみに……どのような記憶の改変がなされていたのだ?」
 エメローナは悩んでいた。
「もちろん排除しといたけど、その闇が残っている点でも同じ―― 改変の内容は私の時と同じ暗示で、その内容は、 運命を従える者なればその美貌を以て事を成さんとする者。 美貌を以て事を成さんとする者なれば、生命の営みにおいてこそ真価を発揮する多産を司る者―― ゆえに貴様の本性は、数多の男共と交わることを至福の喜びとする性に奔放なアバズレ痴女…… その存在を示せ――とかなんとかブツブツ言っていたわよ。」
 なんだって!? ということはまさにエメローナと同じアバズレ痴女への暗示!?  フレアは耳を疑ったがエメローナと違い、フレアにはその暗示が通じていないようだ――
「ま、フレアには通じるわけないんだけどね……って、 でも、それはそれでちょっと寂しい気がするんだけどな――」
 エメローナは言うとフレアは落ち込んだ様子で答えた。
「私はいいのだ、これで――」
「まあ、気持ちはわかるけどね。 でも――いつかはきっと自分を許してあげないと……」
 フレア……いや、運命の精霊様には何かしらの過去があるようだ。
「だが、それゆえに、暗示の効果は私には無意味だということなのは確実だな」
 そうらしいが、それはそれで――
「なるほど、それは面白いヒントね。 なら、私もちょっと試してみようかしら?」
 何をする気だ。

 話はさらに続く。
「私らをアバズレ痴女にする犯人の目的は一体なんだったんだ?」
 フレアはそう訊くとエメローナは考えた。
「標的になっているということは……私らの存在がそれだけ厄介だからってことか、 もしくは単なる嫌がらせか、仕返しってことも考えられるわね――」
「単なる嫌がらせにしては度が過ぎていると思うぞ? そもそも現場は精霊界だろう?」
 確かにその通りだが――
「それなら仕返しとか厄介だからっていうのも的外れかもね、 いくら何でも度が過ぎていると思うのよ。」
 それもそうか、となると――
「結局はどれも当てはまると考えるしかないのよね――」
 なるほど……フレアは悩んでいた。
「あまり考えたくはないのだが、犯人は精霊界にいるってことか?」
 エメローナは頷いた。
「というより、それしか考えられないって事になるわね。 けど、犯人の痕跡が残滓でしか見れない以上は追跡もできないわね。 でも――そんなことをするやつがいることは間違いないってことで、精霊界ではもめにもめているのは確実なのよ。 無論、ウロボロスをいきなり放った件も含め、精霊界では半ばパニックになっている状態ね。」
 そう言われてフレアは悩んでいた。
「メリルとか一部の高級精霊が精霊界を飛び出してエターニスに出てきているようだが、そういうことか――」
 重鎮たちの怒号が飛び交っているが故の退避ということらしい。
「けど実はね、私としては犯人にちょいと心当たりがあるのよね。」
 そうなのか? フレアは訊いた。
「それを精霊界に進言すればいいのでは?」
 だが――エメローナは首を振った。
「そうしたかったのは山々なんだけど、いろいろと問題があってね。 まず、第一に、被疑者が新システムをどう弄ってあんなことができたのか?」
 そう言えば、記憶のあのシステム自体がかなり新しいシステムだったか。 そう考えれば確かに記憶をいじること自体がかなり高難易度なもののハズ、犯人はどうしてそれができたのだろうか。
「だが、あのシステムを作り上げた代のシルグランディアが精霊界全体に”れくちゃあ”会とかいう催しで説明していなかったか?」
 エメローナは首を振った。
「流石に記憶をいじることまでは説明しないって、 何が起こるかわからないのにトーシロ共相手にそんなことしないって。 そして……ここが一つ重要になるところなんだけど、私が考えている被疑者の特徴から、 そもそもそんな”れくちゃあ”会とかいう催しに参加しそうにないことがあるわね。」
 ということは、その被疑者もある程度特定できているってことか?
「誰だそいつは?」
 フレアは訊くとエメローナは答えた。
「ええ、そいつは高級精霊の中でも下位に属する精霊で、 名前は例の根暗精霊”暗い明日”君こと、クライアス君なのよね。」
 なんだって!? フレアは驚いていた。
「”暗い明日”……そいつのことはかすかに記憶がある……確か、 暗い穴倉にこもってはいつもブツブツとわけのわからぬことをしているあいつのことだろう?  何を言っても不機嫌そうにどこかに行けとしか言わぬアイツ……そいつが犯人!? 本当か!?」
 そう言われてエメローナは悩んでいた。
「そうなのよね、問題はそこなのよね、最初は同姓同名の別のやつだと思って―― しかも最近精霊界に上進してきたばかりとか言うからそれで納得しちゃったけどさ、なーんか妙に気になるのよねぇ?  カルスの前では新たなる運命の精霊の一部である”天命の精霊”とか言ってたみたいだしさ?  そしてそんな奴がシステムの改変をするにはどうしたらいいとか訊いていたかと思えば、 でもそんなことが安易にできないことを確認したかったから安心したとか言ってみたり?  なんだか妙にわからないのよねぇ?」
 なんだそいつは、それはますます怪しいやつだな、フレアはそう考えた。
「そうなのよ、そんなやつが寄りによってあの根暗精霊”暗い明日”君と同じ名前っていうのもねぇ。 そして――犯人と思しきやつの記憶はあくまで残滓としてしか記録されていない。 つまり今回の話、これで終わりと言うにはまだまだ時期尚早ってことよ。」
 そう、この話は、ここではまだ終わらない。