バンナゲート島――遠くから見ると高い建物の立ち並ぶ島である。
バルファースは島の港にうまく入港するとそのまま小型の船で再び出航、
島から離れすぎない程度に船を動かすと、いくつかのクルーズ船が停泊している港へと上陸した。
そして、2人の使用人はそそくさと町のほうへと戻って行った。
「完全に使用人まで巻き込んで――」
「確かにその通りだが、ついて行くっつったのはあの2人だ」
「海賊を名乗って無茶すりゃあ……あの2人の気持ちもわかるな……」
ディウラは呆れ気味に言うとバルファースは何の気なしに言う、だが、カイルもまた悩んでいた。
「なんとも騒がしいな」
一方のフレアは東の海を眺めつつそう漏らしていた、
なんだかいくつかの船が並んでいて騒々しさを覚える光景だった。
「お宅ら精霊様のお力で何とかならないもんか?」
バルファースはそう言った。
「ん? 何の話?」
カイルは訊いた、確かになんのことだろうか。
「魔族だ。
ここよりも東に”ドーアニス”と呼ばれる大陸がある。
魔族はさらにそこから東にある通称”魔界”と呼ばれた島を根城にドーアニス大陸を征服してしまったと訊く――」
フレアにそう言われてカイルは頷いた。
「その話か。
そしてとうとう”ゲルタニス島”――ここから東にある島に侵攻し始めているんだってな。
ここまで侵略が及ばなきゃいいけど――」
状態は何とも泥沼の情勢……果たして、この世界はどうなってしまうことやら。
「生憎だがそれも世の常……精霊界も余程のことにならなければ本腰を動かそうとしないだろうな――」
フレアは残念そうに言うとバルファースも言った。
「自然の摂理ってか、確かに、ドーアニスがやられちまった程度じゃあ精霊界とやらが動くわけないか。
動こうと考えていればドーアニスがんな状態になっているわけねえな」
そういうもんか。
「ただ――魔族が力を振るって侵略しているのには何かしらの原因があるはずだ。
精霊界では主にその原因を突き止めているハズ、いつになるかはわからぬが期待しないで待っているしかあるまい」
フレアはそう言うとバルファースは頭を掻いていた。
「グローナシア千年までには間に合ってくれるといいんだがな」
皮肉ではあるが、彼に一票。
なんとも豪華そうな邸宅の立ち並ぶエリア、ディウラの案内で5人は進む。
そして、とある大きな豪邸の前に――
「おい、そこ、俺の家だろ――」
バルファースから苦言が。確かに、自分の家ではなくよその家に案内するなんて。しかし、
「いいじゃないの、固いこと言わないの」
彼女はそう言って一蹴した。
「言うだろ普通。まあいい、いずれにせよ、面倒だからな――」
と、バルファースが言った。するとカイルがフレアたちに対し――
「ディウラさんの家なんだけど、なんとも気難しい人がいるせいで俺が行った時も……」
なんだかひと悶着あったらしい、それはそれは――
「悪い人ではないんですけどねぇ……私は昔から苦手だったかな――」
とディウラは言った。当人がそう言うんじゃあ仕方がないか。
それに……自分がハンターになったことでさらに関係が悪化、
お母様は賛成しているのにどうして――
「そういえば父親は反対していたんだってな、最後はそうでもなかったと聞いているが――」
フレアは言うとバルファースが言った。
「俺がそいつと婚約を解消したことを契機と捉えて新たに自分の女にしてやろうって名乗りを上げてきた野郎がいてな、
”ドラクソス”だか”ドラ息子”だか知らねえが――」
正しくは”ドラクロス=C=スティラフォード”という名前らしい。
「なんとも乱暴なやつだな。
ディウラの心情を察するに、そんなのと一緒になるって言うこと自体があり得ない気がするのだが――」
フレアは憤慨しながら言うとバルファースはため息をつきつつ話をした。
「ところがそうはいかねえのさ。
貴族の女ってのはなんとも肩身が狭いとは聞いているとは思うがまさにそれでな、
未婚の女がいるとあらば漏れなく婚約関係を築き上げなければいけないっていう決まりみたいなものがあるのさ。
貴族社会が生んだ弊害か……とにかく女は不自由を迫られるってのが通過儀礼なんだな。
リアンドール家の奥様についてはわからんが、うちのお袋もついた旦那程度にはものを言えるようになってはいるものの、
それは結婚して初めて勝ち得られる権利……そうでない女に物を言うような権利など与えられないのさ」
「それに……どのぐらい物が言えるのかはついた家に依存するっていうね――」
と、ディウラも追随した。
「なるほど……酷い世界もあったものだ」
フレアは考えた。
「それでディーマスさん、ディウラさんのことを想って――
そんなに彼女のことを想っていたんなら一緒になればよかったのにねぇ……」
パティはひそひそとフレアにそう話した。
「お母様はどう思ってるの? そのドラ息子さんのこと……」
パティはそう訊くとディウラは答えた。
「お母様もよくは思ってないわね。
それに、お母様は私には好きな相手と一緒になりなさいって言ってくれているの……」
そうだ、それがいい。
「リアンドール邸はこの隣、ヤツは我が物顔で出入りしている……
あいつのおつきにでも見つかったら面倒だ、さっさと入るぞ」
と、バルファースは自分の家に入るように促した。