ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

プロローグ 導かれし刻のはじまりの刻

 その”シュリウス”での夜、とある洞窟で事件が発生した。 ちなみに、”魔物”と呼ばれるものが出るのは事件には相当しない。
「俺に任せておけば大丈夫だっつうの!」
 暗くて狭い洞窟の中に冒険者が2人いる。 うち、1人は自信たっぷりに話している。 もう1人はその自信たっぷりの冒険者を説得していた。
「いや、ヤバイって。絶対にやめたほうがいいって!」
「いいの、俺は大丈夫だから!」
 聞く耳持たず。
 そのまま2人は歩いていると、「グオオオオ」という轟音が響いた。 2人はそれにビビった。
「ほ、ほら、やめたほうが……」
「こ、このくらい、普通じゃねえか!」
 いくらビビっても、この自信たっぷりな冒険者の意思は変わらなかった。 説得しているほうは元より洞窟の中に入ること自体が予定外であった。 それでも入ったのは、 この洞窟でつい最近別の人が命を落としたという話を聞いてしまったからである。 もしかしたら自分の身も危ないかもしれないのに、 こいつに馬鹿なマネはさせたくないという、 余計な良心が働いてしまっているせいで洞窟に入るハメになってしまったのだった。

 さらに進んでいくと風の向きが変わったようだ、開けた空間についたらしい。 そして、中央の物体に松明を向けると、目的の生物がいた。
 この洞窟では古くから”邪竜”が住んでいるという噂がある。 ”邪”かどうかはさておき、ドラゴンの存在自体はただの噂ではない。 1,000年前の”アーティファクト”の話と違い、 赤眼の真っ黒いドラゴンがこの洞窟にいるという話がある。 それは、命からがらで逃げ出してきた目撃者がいたから得られた話だ。 しかし、討伐しようとドラゴンに挑んだ連中は二度と日の目を拝むことはない。
 今回のこの2人のように、討伐を目的とする者とそれを止めに入ろうとする者の場合、 止めに入ろうとする者は仲間が目の前で殺された絶望感を味わって帰ってくる。 それは、高い知能を備えているドラゴンは無駄な殺しを好まないためである。
 ドラゴンは通常、大きいサイズのものをイメージする人が多い、この世界でそれは当り前だ。 しかし、今回のドラゴンは一般成人の背の2倍弱という、 イメージを大きく覆すサイズのせいで、我こそはという討伐希望者が増えるから困る。  小さくてもドラゴンはドラゴン、 そいつさえ斃せばそれだけで”ドラゴン・キラー”としての称号を得られるらしい。 説得しているほうの冒険者はそんな星の下に生まれてしまった自分を責めるしかないだろう。
 だが、2人は仕方こそ違えど、ドラゴンを見つけたことで大きく感動したのだった。

「よし、もう気が済んだだろ? 帰ろうぜ」
 説得しているほうの冒険者はそう言うが、 無論、ドラゴンを斃したい冒険者はそれだけでは諦めなかった、腰の剣を抜いたのだ。 目標は目の前の真っ黒いドラゴン、 寝ているのか、うずくまっていて微動だにしない。
 ならば先制攻撃、周りの闇よりも黒いそのドラゴンを斃すこと、 彼の頭にはそれしかなかった。 予想に反して小さいドラゴン、 彼にとっては見た目の恐怖感はそれほどでもなかった。

 説得の甲斐もなく、とうとう彼は突きを放った。 するとドラゴンはターゲットに対して鋭くにらみつけた。 赤の色は危険を表す色、その眼は2人に恐怖を与えた。
「なっ、びっくりさせるなよっ!?」
 無論、その眼についても噂通りのため織り込み済である。 とはいえ、その眼の恐怖の効果は絶大で、彼の突きの勢いが衰えてしまっていた。 それで諦めることもなく態勢を立て直した冒険者だが、 その隙が災いして、次の突きは既に相手に見切られており、大きく空振ってしまった。 この隙が決定的な敗因につながり、返り討ちにあってしまった。
「危ない! よけろ!」
 しかし時すでに遅し、ドラゴンの口から放たれる火炎弾の餌食となってしまった。
「しまった! うわあああ!」

 赤く燃えさかる炎の玉、 それによって横たわる友……彼は死んでしまった。
 そうそう、この説得しようと試みていたような冒険者の中には、 命からがら逃げ出してくるほかにもうひとつの行動パターンがあった、 残された者の気持ち――そう、つまりはそう言うことである。 だから彼はその行動に出た。
「テメェ! ただで済むと思うなよ!」
 腰から古ぼけた剣を引き抜いて構えた。 それにより、この冒険者もドラゴンの餌食となり、帰らぬ人となるはずだった。

 普通ならばこの話はそこで終わるはずだがまだ続きがあった……それは、実はこの冒険者は無事で、 死んだのは黒いドラゴンのほうだった。
 なんだかよくわからないが、冒険者の持っていた剣がドラゴンを一突きにしたのは確かである。 ほかにこれといった原因もなく、それが決定打となったのもまぎれもない真実である。
 竜のうろこは堅かったのではないのだろうか、こうも簡単に突き通せるとは。 いや、しかし……う~ん、考えても仕方がない。
 冒険者は家に帰ることにした。 今夜のことはみんなには黙っていよう、訳が分からない。
 西の町はずれに住んでいる彼の帰路はそれほど遠くはない。 あの洞窟は町からは自宅と同じ西の方向なので早く帰ってさっさと寝ることにした。 この日は非番だったのに、ドラゴンのせいで台無しだった。

ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~
 Dragon Slayer -Glonasian Episode-