ある世界でのお話。
その世界ではすでに戦いが始まっていた。
今回のお話はとある建物の一室から始まる。
ローブを着た”魔導士”と呼ばれる者の集団が、その部屋の中央にある祭壇を取り囲み、話をしている。
辺りは緊迫していた。そんな中、最初に口を開けたのはこの集団の長である。
「ここが最後だ、間違いないな」
彼らは各地に祀られているいくつかの”アーティファクト”と呼ばれるものを守るのが目的だった。
”アーティファクト”は悪しき者たちによって脅かされているのだが、
それでもなんとかいくつかの”アーティファクト”はなんとか守り抜き、彼らの手元にある。
そしてまたここに一つ、”シュリウス”と呼ばれる場所にそれがあった。
しかし、今は非常に危険な状況、建物の外はすでに悪しき者たちが取り囲んでいたのだ。
「じゃあ、はじめるぞ」
族長の一声で集団は”鎮魂の唱”を唱え始めた。
この”アーティファクト”が宿す強大な力は周囲にまで影響し、
このままでは触れることさえもままならない。
まずは”アーティファクト”を持ち出す必要があるため、
この呪文による儀式を行い、力を鎮めるのである。
”アーティファクト”の宿す力は未知数とされ、
この儀式のために多大な人数とパワー、そして時間が必要だった。
このために彼らは数をそろえてきた。
彼ら一人一人のパワーも今までの”アーティファクト”を鎮めるのに成功してきたということもあり、
保証されている。
だが、今回ばかりはほとんど残されていなかった。
「時間がない、急ぐぞ!」
全員でさらに力を込めた。
力を込めるほどに威力は増し、時間短縮につながるが、
その反動として自らの命を危険にさらすことにもなる。
だが、長はそれを行使していた――
「長! それはいけません!」
長の付き人が気づいた。
「私を止めるな! 構わず続けるのだ!」
集団はそれぞれ互いの顔を見合せ、覚悟した。
それぞれがさらに力を発揮させ、結果、呪文は成功した。
”アーティファクト”を取り巻く力は抑制され、長の付き人はそれを手にした。
「ふう、なんとかうまく行きましたね、長――」
付き人はそう言ったが応答はなかった。長はすでに息絶えていたのだ。
集団は沈黙したが、それどころではないことに気が付かされた。
「皆の衆! 最後の力で”アーティファクト”を守るのだ!」
付き人は長に代わり、集団に指示した。
彼らは”アーティファクト”のために力をほとんど使ってしまっていた。
このまま持ち出しても奪われ、殺される運命が待ち受けているだけである。
集団には子供も含まれていた。
子供なので儀式に参加するほどの能力はないが、大人たちを見守っていたのである。
そこで、集団は子供たちと”アーティファクト”を守るために悪しき者たちと戦い、
”アーティファクト”は未来ある子供たちに託すことにした。
それは、運命を託すことと同義である――
このグローナシアの世界ではその話が今から約1,000年前にあったと云われている。
有名な話ではあるが具体的な年代までは特定されず、
証拠や文献もまったく発見されていない。
歴史学者をはじめとするさまざまな分野の学者、
また、あらゆる角度から歴史を立証しようとするプロジェクトまで発足したが、
結局、確証は得られず、架空の物語として定着している。
それでも、歴史は実在していると訴え続ける団体もあるが、
現実的な意見として受け入れられてはいない。