ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第1章 ヴァルナジアのお姫様

第8節 黒い魔の手

 大臣の部屋――
「さて、まずはどういうことだか説明してもらおうか。 私は殺せと命令したハズだが、何故姫は生きているのだ?」
 話をしているのはおそらく大臣である。そして、おそらくだが誘拐の実行犯と話をしているようだ。
「確かに”あの娘を誘拐次第殺せ”とは聞いたが、それが姫だとは一言も聞いていない。 王族殺しは重罪だろ? あんな”はした金”じゃあ割に合わん。 誘拐だけでも十分、ほぼサービスのようなものだと思ってほしいものだな」
「ふん――まあ、こうなってしまっては致し方あるまいな。 まあよい、予定通りとはいかぬようだが、さほど問題ではないからな」
「何だよ、だったらわざわざ誘拐しなくたってよかったみたいな口ぶりだな」
「そうだ、殺せぬというのならば誘拐しようがしまいが変わらんからな」
「なんとでも言うんだな。そんなことよりも、アズルの姿が見えないんだが、あいつは遅刻か?」
「アズル? ああ、あいつはもうこの世にはおらん」
「は? どういうことだよ、あいつは目的を達成したんだろ? だったら――」
「ふっ、だから始末したのだ」
「――なるほど、口封じってわけだな、あんたもぬかりないな」
「そうだ、だからできれば私の言ったとおりに命令を遂行してもらいたかったものだな」
「なんだよ、次は俺を始末する気か?」
「いや、お前はヤツと違ってプロだから生かしておくつもりだ。 それに、できれば別の任を与えようと考えておる」
「別の任? また殺しか?」
「そうだ。また姫の件のようなことがあっても面倒だからな、ターゲットは政界の重鎮で報酬は前金として前回の3倍出そう」
「3倍!? なんだよ、そんな大物なのかよ!?」
「そうだ。次のターゲットはドスボンだ、成功報酬として前金と同じ額を出そう、それならもんくはなかろう?」
「ドスボンだって!? そいつは難儀だな――まあいい、それなら引き受けてやる」
 こうして、暗殺者はその場を去った。
「守銭奴めが――まあいい、やつは金さえ積めばきちんとやってくれることだろう。それよりもだ――」
 まだもうひとりいたようである。
「次はドスボンか、フッ、ヤツさえ消えちまえば俺としても仕事がしやすくなるな。 それはそうと、こちらの準備も整ってますぜ、ダンナ」
「そうか、よくやった。ならばお前ももう用済みだ」
「へっ? ダンナ、それはどういう――」
「聞けば、姫はお前のアジトの連中につかまったそうだな。 そして、それをあのハンター風情によっておめおめと取り逃がし、この私の計画を台無しにしたわけだ」
「そ、それは――誰も姫の顔を知らなかったんだよ! 仕方がないだろ!」
「それもそうだ――あの箱入りの顔を教えなかったのも私の罪、 そしてこともあろうに、姫はいらぬ知恵もつけてきたようだ――」
「そうだろ!? 決して俺に非はねぇ!」
「だが、たとえ何者であろうと取り逃がしてしまったことは事実――」
「そっ、それは――」
「そういうわけだ。しかしお前はよくやった、それに免じてこの私自らの手で――」
 その男は、あのアジトの悪の親玉だったようで、翌日、あいつの死体が街道の脇道で発見されたのだった。
「ふん、まったく――黙っておればいい気になりおって。 よし、お前たち、始末をしておけ。 それから、モヘトに後でここに来るよう伝えておけ」
 何人いるんだよ。
「私は――伝えねばならないことがあるのでな」

 大臣は奥の部屋へと入ると、何者かが話しかけてきた。
「テザンド、姫を殺し損ねたようだな」
 テザンドは跪いて言った。
「申し訳ございません。ですが、手はすでに打ってありますのでご安心を」
「そうか、抜かりはないな」
「はい、ただ――問題なのは、あの女がワイアンドを頼るということです」
「賢者か――まあよい、面倒ではあるがこちらが先に事を運べばいいだけのこと――」
「はい、準備はすでに整っております。 ワイアンドが来ようと後の祭り、もはやヤツの力だけで止めることはできはしません」
「そのようだな。だがもう一つ気がかりなことがある。昨今”七魔性聖”の話を聞いたが?」
「はい。ですがあのハンター風情がすぐに飛びつく話題ですから、こちらもさほど問題にはならんでしょう」
「ちなみに誰だ? 2人いると聞いたが?」
「はい、ザマドスとヴィラネシアでございます」
「何!? ヴィラネシアだと!?」
「はい、ヴィラネシアが何か?」
「……やつの能力は特別だ、たかだかハンター程度の能力でヴィラネシアを倒すことはできん。 だから――よほどの手練れを用意するか、お前の手自ら始末をするかになるだろう」
「御意。しかし探すだけならハンターにも利用価値はございます」
「それは好きにするがよい。いい報告を期待しているぞ」
「仰せのままに――」