ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第1章 ヴァルナジアのお姫様

第1節 誘拐事件

 3年間はとにかくモンスターの討伐指令、そればかりだった。 例によって”七魔性聖”の仕業か、それとも模倣犯か、 模倣犯というやつも以前にも増して出没するようになっていた。 少し前までは特に賊による侵略行為が横行していて、組織的な犯行などもあった。  しかし、3年も経つと状況もがらりと変わり、 いろいろと取り組んでいるうちに討伐ミッションは目に見えて減る様になり、 最近はだいぶ落ち着いてきたのだった。
 だが、そうこう言っているうちに別の面倒ごとが発生しはじめ、 トライト民の住まうヴァルナジア地方にとっては重大な問題となっていた。

 2か月前――
「今、ギルドにいるやつはヴァルナジア広場に集合するんだ!」
 ギルドの受付がそういうと、ハンターたちはヴァルナジア広場へとやってきた。 ヴァルナジア広場というのは、トライトの町の隣にあるヴァルナジア城の公園のことで、 ハンターだけでなくトライトの警察隊も集まっていた。 つまり、トライトの町というのはヴァルナジアの城下町に当たるのである。
 お城ということはもちろん王様がいて、 そしてお姫様がいるということになるのだが、その話こそが深刻そのものだったのだ。
「警察隊もハンター諸君も集まってくれたようだな。よし、では早速、こちらに来てもらおうか」
 そう言って促したのは兵士長ファザットだった。彼はなんだか非常に深刻な面持ちであった。

 ハンターと警察隊は城内の会議室へと促され、全員思い思いに座った。 そして会議室の隅にはお城の兵士たち、その場は異様に緊張していた。
「さて、話をし始める前に約束事がある。 いつもの通りだとは思うが、今回のこれは非常に重大な案件だ。 だから改めて言おう、ここで見聞きしたことは他言無用ということだ、 まずはそのことをしっかりと念頭に入れて話を聞いてもらいたい」
 ファザットはそう言うと、これまでにないほどの緊張感に包まれ、その場は不気味なほどの静寂に包まれた。
「それでは聞いてくれ。昨日、我が国の宝でもある姫君……つまりメレア様が誘拐されたのだ」

 他言無用にしては荷が大きすぎる案件で、これには誰しもが堪えた。 彼らに与えられるミッションは、誘拐されたメレア姫の捜索ということだ。
 公式ではメレア姫の顔は関係者以外は誰も知らされていないため本来は探しようがないのだが、 今回は特別に捜索のためということで、限定的にメレア姫のご尊顔を拝見するに至った、 普通に美人であり、ライズも彼女のその顔に見入っていた。
 だが、その姫を誘拐するというのはどういうことなのだろうか、 これだけガードが堅いお城の中で箱入りのお姫様、そしてそのお姫様が誘拐されたなどとは、 これは兵士長ファザット的にも非常によろしくない状況なのではないだろうか?

 その後、ファザットがライズの家に来て話をしていった。 ファザットはビールを片手にひどく酔いつぶれ、泣き崩れていた。
 ライズとファザットは一応昔馴染みであり、ファザットのほうが少し年上である。 ライズにしてみれば兄貴みたいなものだろう。
「まあまあまあ、必ずしもお前のせいじゃないってば――」
 ライズは泣き崩れるファザットをなだめていた。
「すべて、すべては俺の責任だっ――! 何故、姫は――姫様は誘拐されたんだっ――!」
 それは誰もわからない、あの要塞のようなお城から姫を連れ出すとか並大抵のことではなさそうである。
「このままでは――ナジール王に申し訳が――」
 愚痴を聞いている側としても内容が内容だけに辛いところがあった。 確かに誘拐された姫の親であるハズのナジール王に合わせる顔もないな、このままでは。 ナジール王といえば今は病床に伏しておられるハズである。
「王もあまり長くはもたないそうだ。そんな中で此度の不始末……俺はどう責任を取ればいいんだっ!」
 ライズはとにかくファザットをなだめ続けていた。
「ライズ、お前にも面倒をかけてすまんな――」
 ライズはこの際だからできることならなんでも協力したいと思っていた。 とにかく、気落ちしているファザットを何とかして話を続けようとしていた。

 いろいろと悪いな、ファザットはそう言った。とりあえず落ち着きを取り戻したようだった。
「それよりも、本当に誘拐なのか? まあ、疑いようのない事実なんだろうけれども」
「俺個人としても正直、姫が誘拐されたとは思えないのが実情だ。 知っての通りあの建物はまさに要塞そのもので、外部からはおろか、内部から外に連れ出すのも容易ではない。 それなのに誰も姫が誘拐される様を目撃していないのも不自然だ」
 それはまた妙な話である。
「だけど、相手は姫だと思って誘拐したのか? なんせ、顔は公表されていないハズだろ?  姫様らしき服装の人物を探すにしても、城の中にいる貴族連中もだいたい似たような服装しているハズだから、 ピンポイントで姫だけを探すって不可能に近いんじゃあ――」
 その意見については、ファザットも同意見のようだ。
「それなのに、それなのに! くそっ! どうなっているんだっ!」
 とりあえず、ライズは再びファザットを落ち着かせるためになだめた。

 誘拐されたからには何かしらの目的があってしかるべきなのだが、それはどうなんだろうか。
「姫の姿を最後に目撃したとされる大臣によれば、姫が誘拐されたと判断したのは、 最後に目撃してから6時間後のことだったらしい。 姿が見えなくなり、路頭に彷徨った挙句どうしても見つからないからと、それで誘拐されたと判断したんだそうだ」
 大臣の判断――確かに、国のVIPであるその人物が消えてから6時間も経ったら誘拐と思わざるを得ないであろう。
「ただ、誘拐犯からは特段要求もない、その点も本当にただの誘拐なのかが気になるところだ」
 要求もなし、無事かどうかもわからない、とにかくただ単にわからない、お手上げである。
「こう言うのもなんだけど、お淑やかでお上品で究極的な箱入りのお姫様が誘拐されたら―― あまり長くはもたない可能性があるな。 ヒントがあまりないから探しようがない感じだけど、なんとかして探してみるよ」
 ライズはそういうと、ファザットからは意外な返答が。
「ああ、俺も最初はそう思った。 しかし、メレア姫は非常に芯の強いお方で、周囲にはあまり流されない。 確かに、決してお体のほうは丈夫とは言えないかもしれないが、 知的で冷静、知略をめぐらせ、勝負事にはめっぽう強い方なんだ。 現に俺は、あの方にはチェスで一度も勝てたためしがない、そういう方なんだ」
 うーん、姫様のイメージに反して意外な性格であることが分かった。 だって、どう考えても環境的に明らかに究極的な箱入りのお姫様としか思えないだろ?  ライズ的にはそんな気にさせる城の環境だった。