運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第3章 カルティラの黙示録

第38節 フローナルという存在

 フローナルの深層心理……
「うふふっ♪ お兄様♪」
 まただ……またこの夢か――フローナルはそう思った。 フローナルはこの手の夢をよく見るのだった、 夢の光景は深層心理に訴える内容ゆえに記憶として残らないのだが、 それでも覚醒時に夢で見た現象が起これば正夢という言葉もある通りの既視感を覚えることはある。 つまり……フィレイナとの出会いや兄妹デートもある程度は正夢だったのである。
「なんだ、どうしたんだ?」
「うふふっ♪ なんでもなーい♪」
 その夢の内容はフィレイナによく似た幼い女の子がフローナルを”お兄様”と慕っており、 そして振り回している光景である。
「あのな……呼んどいて何でもないってことねぇだろ?」
「んじゃ、話聞いてくれる?」
「それは内容によるけどな」
「えぇー!? そんなー!? 言うからには聞いてよー!?」
「んなこと言ったってなぁ……俺にもできることとできないことがあるからなぁ……」
「そっかぁ! 仕方がないなあ、ステキなお兄様に免じて、この際それで許してやるか!」
 まさに仲の良いカップルのデートのような印象はあるが、 その間柄は何故かあくまで兄妹……フローナルの中でも不思議とそのように認識していた。

 また別の光景……
「ねえお兄様ー! 見て見てー!」
「どうしたんだ?」
 再び自分とフィレイナ似の幼い女の子が話し合っているようだ。
「ほら見て!」
「どうしたんだそれ?」
「ウン! この前さ、兵隊さんが折れた槍を置いてったじゃん!?  それをさ、私なりにちょっと直して改良してみたんだよ!」
「おいおいおい……お前マジかよ……とうとうそんなものにまで手を出しやがって……」
 言ってしまえばおままごとのような所業――と思いきや、 それはフローナルの中でももはや常人が理解できる所業などではなく、 あのフィレイナよろしくガチの所業であると認識していた。
「見て見てほら! こうしてさ――はぁっ!」
 と、その女の子は何かを吹き飛ばし――
「仕組みはね、見た目上はフツーの槍なんだけどね、 この宝石……”エンチャント素材”っていうものの一種なんだけどね、 これに風の魔力を込めておいて一気に弾き飛ばす構造なんだ!」
 その幼い女の子、まるで自分の妹のように可愛がっていた―― しかもやっていることといえばまさにフィレイナにも通づるところがある―― フローナルは妙に懐かしく感じていた。

 さらに――
「おい! 大丈夫か!?」
 目の前には頭から血を流していた彼女が!
「あいつはこの先にいるわ、私は――ちょっと疲れたからここで休んでいるわね――」
 誰かを追っている光景か…… だが、彼女の言う通りにするわけにはいかず、お姫様抱っこで抱え上げた。
「放っておくわけにはいかねえだろ? ったく、世話の焼ける無茶な妹だ――」
 そう、まさに余命幾ばくもない状況のフィレイナ……というか、彼女本人なのだろうか?

 そして――
「本当に、あなた方は仲の良い兄妹なんですね!  各々で聞いていた話を共有するなんて!」
 誰かが2人の関係についてなんとも嬉しそうに見ているようだった。 それに対してフィレイナ似の女性――
「今までも割と普通のことだったわね。 なんていうか、お互いにそれぞれ感性が違うし、だからどう考えるのかも違ってくる―― だから訊いた話は必要とあらばまずは共有してお互いにどう思うか意見交換するのよ。」
 なんとも冷静に考察する女だな、こういったあたりもフィレイナに通づるところがある。 夢の中の妹も案外フィレイナ本人だったりするんじゃないだろうか。 
「だな。それに――俺とこいつは今後違う道を歩むことになる――それは故郷を出た時から覚悟していたことだ。 だから――一緒にいる間はとりあえず話をしようと――両親を早くに亡くしているからな。 俺らを強い兄妹と言っているやつは大勢いるが、その実お互いに寂しがりなだけなんだ」
 2人は離れ離れになるというのか――
「そうね、私たち兄妹はなんだかんだ言っても弱いのよ。 だからこうしてお互いに一緒にいたいのよ、近くにいる間はね――」

 フローナルは目が覚めた――。
「久しぶりにあの不思議な夢を見たな――何故か今ははっきりと鮮明に覚えている気がする――」
 フローナルは悩みつつ、そして考えた。
「そして弱さゆえの強さか――」
 するとその時、そこへメフィリアが現れた――
「ふふっ、目が覚めたようじゃの――」
 なんだ一体、どうしたんだ――フローナルは訊いた。
「そうじゃな――しいて言えば、わらわはそなたに興味があってのう♪」
 何っ!? フローナルは身構えていた。
「まあまあ、そういきり立たずともよい。 そもそもそなた――あのプリズム族の里で厄介になっていたと聞いたぞ、だから――」
 なるほど、そういうことか……フローナルは頷いた。
「俺は気が付いたら何故かプリズム族の里のど真ん中にいた。 だが、エターニス出身の精霊であることは間違いない、そこまではわかっている。 ただ、記憶がない……なんでプリズム族の里にいたのか――そういうところか?」
 メフィリアは頷いた。
「そうじゃ。 プリズム族の里のど真ん中にいればこの里と同じように貴重な男児…… つまりは”エモノ”をめぐって女同士の熾烈な争いが巻き起こる。 無論、そうなるとエモノはその女の香の虜となり、 生涯を里の礎としてその身を捧げることとなろう――この星にいるオス共と同じようにな。 じゃが、そなたの場合……」
 そうだ、フローナルの場合は――
「それをかわしてこの星にたどり着いている、そこに興味があるということだな」
 と言った、まさにそういうことである。