運命の黄昏 ~エンド・オブ・フェルドゥーナ~

第2章 オンナの星

第14節 荒れた存在

 大きな木の上から下界を眺めている光景にて。
「ったく、どいつもこいつも何を言っているのか、 世界が滅んでもまた再生させればよいだけのこと、それこそが自然の摂理!  だというのに何を心配しているのだか、それも第1級精霊とあろうものまで…… これでは精霊界の先行きも不安と言わざるを得ないな――」
 例のカティラスがずっと愚痴っていた、するとそこへ――
「カティラス……」
 別の精霊が現れた。
「なんだ、どうした!」
 だが、カティラスは機嫌が悪かった。
「随分と荒れているな――」
「当たり前だ! 精霊界の秩序を乱す者! このままにしておくわけにはいくまい!」
 その精霊は頷いた。
「フェイタリス……やつと我らとは相容れられぬ存在――今に始まったことではない」
 カティラスは訊いた。
「ウラス、以前からそうだったのか!?」
 ウラスと呼ばれた精霊は答えた。
「貴様の以前の代の頃から…… 否、精霊界のこれまでの歴史を紐解いてもあの存在は我らとは確実に違う価値観を持っている…… ゆえに未来永劫意見が交わることがないのだろうな――」
 そんなになのか……カティラスは呆れていた。
「ったく……よくもそんな者が精霊界の住人として務まるものだ、 いずこかで干されてもよかろうものなのに、一体何故……」
 ウラスは首を振った。
「まったくだ。 だが……それでもなおフェイタリスは存続し続ける―― なんとも不思議なことだがあの女はずっと我らの意見とずっと対立し、好き勝手に動き回っているのだ」
 それを聞いてカティラスはなおも呆れていた、だが――
「だから我はもう良いことにしたのだ――」
 なんだって!? カティラスは耳を疑っていた。
「何故だ!? 貴様、一体何のつもりなのだ!?  精霊界の不穏分子なる存在だぞ!? それを知っててなお見過ごすつもりなのか!?」
 ウラスはため息をついていた。
「それが本当に不穏分子なる存在であればな。 言ったように、純粋な不穏分子であれば干されていてしかるべきが道理…… だが、あの女の場合はどうか?」
 そ、それは――そう言われるとカティラスも悩んでいた。
「それに……些細なことであれば露知らず、 此度は世界の存続そのものに関することにまで口論へと発展しておる…… 悪いが、我も流石にそれに関する問答など見とうもない、 だからもはや好きにさせておけと言うのが我の言い分だな……」
 もはや完全に呆れかえっているような状態である。
「そうか……」
 カティラスはがっかりしていた。 だが、自分の派閥の中でもまさにそのような考えの持ち主ばかりであること、彼も把握していた。
「だが、私はやはりフェイタリスを見過ごしておくことなどできはしない…… 此度のことが終わったら厳しく糾弾していくつもりだ――」
 ウラスは考えた。
「そうか、まあ……それもまた自由ということか、ならばお前はそれでよい――」
 そして、ウラスが去った後……
「ちっ、腑抜け共が……まあ、此度ばかりは致し方あるまいな――」

 すると、そこにまた別の精霊がやってきた。
「ふん、まーだブツブツ言ってら、だから下の連中から嫌われるんだ」
 その精霊は意地が悪そうにそう言うとカティラスははっきりと言い切った。
「それがなんになるというのだ?  私は人気で生を全うしているのではない、世界のために生を全うしているのだ――」
「だが、世界のために生を全うするってのは生ある者のためにやるってことだからな、 つまり、一周回って人気のために生を全うする必要もあるってわけだな」
 何言っているんだこいつは……カティラスは呆れていた。
「戯言だな、ヴェルトサード……貴様ほどのものまで妄言をほざくとは……」
 ヴェルトサードと呼ばれた精霊は呆れていた。
「ああ、だろうな……そう言うと思った、お前が理解するにはやっぱり1,000億年早そうだ」
 カティラスは訊き返した。
「何? それだけの月日が経てば私にもわかるというのか? その根拠は?」
 ヴェルトサードは再び呆れていた。
「人間界ではよく使われる比喩表現なんだけどな、 あっちは寿命的にせいぜい長くても1,000年早ぇって言い方するのが正式なんだが。 それすらも伝わらなくて残念だ」
 そう言われてカティラスは考えた、そして――
「そうか、貴様も”叩き上げ”というやつだったのか、 そのような存在にこの精霊界の掟を理解しろというのがどだい無理な話らしい」
 ヴェルトサードは感心していた。
「ほう、”叩き上げ”が意図する比喩表現は覚えてくれたようだな、 そいつは手間が省けてありがたいところだ。 あと、”叩き上げ”だからって”下に見る”……いや、程度の低い者だと決めつけるのは精霊界の掟としてはどうなんだ?  俺もこれでも一応第2級精霊なんだが? やつだってマトモに第1級精霊やってるんだからそれ相応の礼節をもって欲しいもんだ、 この世界に等しく生を受けている者なんだからな……」
 そう言われると……カティラスは悩んでいた。
「言われてみればその通りだ、お前の言う通り、申し訳なかった。 だが、私はフェイタリスのやり方も、第1級精霊のやり方も認めぬからな!  お前はどうなんだ、ヴェルトサード?」
 ヴェルトサードは考えていた。
「そうだな、俺はあんたらと第1級精霊らのどっちのやり方もパスだな」
 なんと、こいつは……また新たな考えの持ち主、カティラスの価値観ではもはや理解の追い付かない存在……いや、これというのはつまり――
「要は考えることを放棄したということか!?」
 と、少々怒りながら言うが、ヴェルトサードは首を振った。
「考えた末だと思ってもらっていい。 厳密には俺もフェイタリス派だと思ってくれればいい」
「それならばさっさとここを出て、お得意の”問題を解決してくる”のがよろしかろう!」
 カティラスはムキになって言うが、ヴェルトサードは首を振った。
「いいや、俺はそれにも反対なんだ。 フェイタリスも第1級精霊も言うことやることは圧倒的に正しいとは思っている。 だが……だからってみんなで外に出て行くことはないよな?  外に行くやつがいるというのならこっちでそいつらの帰りを待っているやつも必要ってことだ。 そうでなければあいつらが留守の間の精霊界を誰が受け持つんだ?  つまり、役割分担も大事ってわけだな」
 ヴェルトサードはそう言いつつその場を去った。 その言葉にはカティラスの心にも響いていた。
「なるほど、役割分担か……」
 去ったヴェルトサードはカティラスがそう言ったことが聞こえ、愚痴っていた。
「ったく、ここの住人は小学生以下か?  いや、どう考えても小学生とかそんなレベルじゃねえな……」