ある世界でのお話。
大きな木の上から下界を眺めながらなんだか憂いでいる様子の男がいた。
「そろそろ時代が”転換期”を迎えようとしているようだな――」
男はそう言いつつ空を見上げると、そこには何やら大きな建物のようなものが。
「超高度文明を築き上げた代償ということか……
それでも、下界の者たちがここまでの文明を築き上げた例はほぼないといってもいいだろうな、
それだけにあまりにも惜しい――」
もはや世界が滅びるんじゃないかとでも言いたそうな様相である、何者だろうか。
するとそこへ別の者がやってきた。
「輪廻転生、形あるものはいずれかは滅び去る運命だ。
世界はまさに滅びを迎えようとしている、この宿命からは逃れられることはかなわん。
だが、滅びを迎えるということは再生を迎え、そして再び――」
どうやら高次元な方々のお話のようである、2人の身なりもなんだか精霊様だかなんだか……といったような印象である。
最初の男は首を振った。
「だといいんだがな。
だが……カティラス、もしかしたら此度の回復は困難と見える。
そうなった場合はどうか?」
カティラスと呼ばれた者は少々声を荒げて言った。
「またその話……。
それには及ばんだろう、現に世界は何度も再生しては蘇っている――
此度についてもそれは同じことだ! ”精霊王”よ、同じことを何度言わせるのだ!?」
相手は”精霊王”と呼ばれる存在らしい。精霊王は答えた。
「カティラス……今回ばかりは折れるがよい。
”精霊界”や人間界に負担をかけまいとするその働き……それには常々感心するが、
しかし、”理想と現実は違う”のだ――」
そう言われてカティラスはなんだか悔しそうにしていた。
「私は理想など話してはおらん!」
少し前のこと――精霊様たちがどこかの森の中の広場にて少しずつ集まっていた。
「はてさて……」
広場の中央に精霊王が佇んでいた。そこにカティラスが――
「どうした精霊王? わざわざ改まって皆を集めるほどのことでもあったのか?」
と訊いてきた、だが、精霊王の隣には――
「貴様……”フェイタリス”! 皆忙しいのに何を考えている!」
と、”フェイタリス”と呼ばれた女の精霊を見ると声を荒げて訊いた。
「落ち着かんか! 彼女は私に話をしただけ、皆を集めたのは私の判断だ!」
それでも怒りの収まらないカティラス。
「何を言う! それはこの間、フェイタリスが言ったことについての話だろう!
あのような世迷言を誰が鵜呑みにするというのだ!?」
そう言うと、次々とカティラスの言うことに便乗してくる者が。
「やれやれ、”フェイタリス様案件”だったか、飛んだ無駄足だったな――」
「もういい、お前たちも持ち場に戻れ――」
「精霊王もお人好しが過ぎるんだよなあ、フェイタリスなんかほっとけばいいのに……」
それに対してフェイタリスは呆れたような態度で言った。
「ふっ、お前たちのような平和ボケした精霊共には荷が重すぎる話だからな、話をしたくないのも無理はない――」
そう言われ、カティラスと彼に便乗した者はむっとしていた。
「貴様の話には根拠がないのだ!
ならば根拠を探してくる……毎回それで逃げているよな!?
今回もどうせそのつもりだろう!? だったら話などせずにさっさと行ってくるがいいだろう!
そして毎度のように精霊界に大きな負担をかけさせてくる!
精霊界はお前のおもちゃではないのだぞ!?」
というと、その場には別の男が現れて言った。
「大丈夫だ、そいつには及ばねえ。
何故って? それは……今回は俺が”見てきた”からな」
すると、その場は一気にざわついていた。
「なっ!? まさか……”第1級精霊”!?」
カティラスが言うと第1級精霊は頷いた。
「お前には悪いが、フェイタリスの言うことは圧倒的に正しいようだな。
お前らにも味方してやりてえのは山々だが……どうもそいつは無理な相談らしい」
というと、他の精霊たちはひそひそと話をし始めていた。
「とは言うが、あいつっていつもフェイタリスの肩を持つんだよな……」
「そりゃあそうですよ! フェイタリス様は美人ですからね!」
「そうそう! フェイタリスお姉様に任せておけば間違いなし!」
「いや、今回は任せなくたっていいんだろ? ”見てきた”って言ってるしさ――」
「ふん、フェイタリスなぞ放っておけばよかろうに……解せぬ――」
「あの方も叩き上げですからね、現実を直視した上で物事を進めるのでしょう」
「現実を直視しているというのであればこのような場を設ける必要がないことなど百も承知のはずだが?
新しい第1級精霊様はやはり理想を掲げるだけの存在、この精霊界には似つかわしくない存在だったのでしょう」
どうやらフェイタリス様は好きな人と嫌いな人が二分している存在のようだ。
すると、第1級精霊は言った。
「なんでもいいが、話を進めてもいいか?
所詮は理想、そう決めつけたいのならそれでも構わねえが、とりあえず話だけでも聞いてくんねえか?
せっかく場を設けたことだしな」
せっかくなので……場にいた者は話だけ聞くことにした。
「そうだな――こう言えば理解が早いか……。
フェイタリスの言っていた話だが、どうやら起きている事件の真相は想像を遥かに超えているらしい」