それからまた4年が経ったある日のこと――
「ふんふんふん、なるほどねぇ……」
レミシアは悩んでいた、そこへ――
「レミシア? 何しているの?」
ミュラナは話しかけてきた。
「あっはっはっはっは! ほらぁ! どうしたどうした姉ちゃん!」
レミシアと対峙しているオッサンは何やら得意げな様子だった、それが何かというと――
「おう! こいつは将棋っていう戦略的なゲームでな!
今はこの姉ちゃんがこの俺に挑んでるところなんだぜ!
ま、初めてにしちゃあ上出来ってところだけどなあ!
あっはっはっはっは! ほら! 姉ちゃんの番だぜ!
長考しすぎると反則負けなんだぞ!?」
が、しかし――
「いえ、これはどう見ても私の負けね、これは参ったわ。」
オッサンは驚いていた。
「はぁ? もう諦めるのか!? まだ手がいくらでもあるだろう?」
レミシアは首を振った。
「いえ、これはどう頑張っても挽回できない状況ね、時間の無駄よ。
うーん、ようやくルールをつかんだところで既に負けている状態に気が付くなんて――時既に遅しってわけね。」
オッサンは再び驚いていた。
「えっ、この状況からそんなことが読めるのか?」
「ええ、十分読み取れるわね。
オッサンがこの17手先あたりまでにヘマするようなことがない限り、
その53手先に100%完全な詰みで私の負けが確定しているわね。」
この姉ちゃん、マジか……オッサンは悩んでいた。
「まあいい、そう判断したんならそれでいいだろう、
確かにこの手は既に俺の勝ちが決まっている状態なのはおよそ確実だからな!
もっと腕を磨いてくるんだな!」
が、しかしレミシアは――
「ええ、また来るわね。
でも、もう二度と負けないから安心していいわよ、勝ち筋はもう見えているからね。」
するとオッサンは考えた。
「……確かに姉ちゃんなぁ――今までの見るにいろいろと並外れているからなぁ……。
なあ、時間があるんならもう1回やらねえか?
ルール知らなかったから負けましたってのはナシにしたいだろ? なあ、どうよ?」
ということでもう一戦対局することに。すると――
「ま、参りました……」
と、オッサンはレミシアに両手をついて頭を下げていた、降参したのである。
「ええ、わかっているわよ、オッサンの36手前の手がまさに敗因そのものだからね。
そこですかさず仕掛けさせてもらったからオッサンの勝ちはその時点でなくなったのよ。
だからあそこで降参してもよかったのよ?
んで、このままあと23手先の王手で完全な詰み、オッサンの負けの確定ね。」
とにかくやばすぎる女、レミシアである。
「レミシアってやっぱりすごい! ”クロノリアの将棋の名人”様っていう人を負かせてしまうなんて!」
と、ミュラナを初め、周囲から称賛の嵐だったレミシア。
「すげえな姉ちゃん! 本当に将棋は初めてかあ!?」
と、名人は言う……
「レミシア? えっ、初めてやって名人様なんて人に勝ったの!?」
ミュラナは恐る恐る聞くとレミシアは何それとなく答えた。
「ううん、今ので2回目よ。」
だから初戦はルール知らないで名人に負けた局! つくづくなんて女だよ!
「姉ちゃんぜってぇただもんじゃねえな――」
それは周知の事実である。
レミシアはレイの家に戻ろうと立ち上がると、そこへリアントスが。
「この女にかなうやつはいねえってわけだな、まさに安定のシルグランディア様ってところか。
ネシェラも7歳の頃に似たような戦略的ボードゲームで名人を軽く破っているからな、
もはやヤバイとしか言いようがねえときたもんだ」
彼の隣でセレイナも嬉しそうにしていた。
「流石はレミシアさんです!
私としてもやっぱりネシェラさんを見ているようです!
彼女も本当にすごい人なんですよ!」
ふーん……レミシアは考えた。
「あんたたちってアーカネル騎士としてつながっているみたいだったけど、
当時のネシェラの立ち位置ってどんなだったの?」
リアントスは頷いた。
「あの女は一言で言えば国をひっくり返す役目だ。
騎士にとっては上司、ネシェラにしてみれば騎士は手駒ってわけだな。
自身の騎士としての腕前はもちろんだが場を読む力も得意でな、
物干し竿一本で手練れの騎士すらをも負かしてしまうんだ、
あれはもう違う次元のものをみているとしか言いようがない光景だったな……」
そんなにやばいのか!? 隣で聞いているミュラナはなおも驚いているが――
「物干し竿一本? レミシア姉様の話? あれ、いつの話だっけ?」
と、ディアは訊いた……えっ、まさか――
「懐かしいわね、お父様がマトモな武器を持たせてくんなかったから仕方なく物干し竿をぶん回していたのよ。
マトモな武器を持たせてくれたのは私が6つの時だから26年前、私が盗賊に襲われてからだったわね。
竿でボッコボコにしてたところをお父様が心配しながら来たんだけど、既に後の祭りって、
お父様の顔を見ながらゲラゲラ笑っていたことを思い出したわね!」
と、レミシアは楽しそうに語った……いや、フツーに怖いこと言ってるし。
「やっぱり、この女には何を持たせても凶器にしかなんねえな――」
リアントスは呆れていた、もはや安定のレミシアと言わんばかりである。