クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第13節 再出発の兆し

 レイたちがドミナントへ行った2年後の出来事、ウェイドが改めてドミナントへ行き、 書物に書かれているはずのヒントを解明してきた。
 そしてその内容、まずは東の大陸に渡らないといけないことがわかった。
「また旅ですか? もちろん、私でよければお供しますよ」
 ウェイドは気さくに返事をした。
「ああそうそう、この間はドミナントで買いそびれてしまいましたからね、 ですので、これは今回の旅のためのはなむけということで差し上げます」
 なんと、ウェイドはレイのために武器を買ってきてくれたのだった! レイはすごくうれしかった。
「えっ、いいの? 本当に? ありがとう!」
「いいですよ、レイさんぐらいなら最低でもこのレベルの武器でないと能力に見合わない感じですからね」
 レイのポテンシャルを考えてのことだった。

 クロノリアから出ると、レイは早速試し切りをしていた。
「そんなことより、書物にはなんて書いてあったのよ? 東の大陸にいくんだろ?」
 クラナはイライラしていた。だが、レイは書物の内容よりも新しい武器のほうに夢中なのである。 武器は鉄製の小剣の二刀流だ、敵をどんどんすっぱすっぱと切り裂いていくよー!  早速魔物に先制攻撃を仕掛け、そうそうに仕留めて――
「そんなことはいいから! さっさと書物を見せんかい!」
 クラナがキレた。 まったく、仕方がないなあ――とりあえずクラナにこの書物を預けておこう、そうすれば話が早い、レイはそう考えたが――
「あんたねえ、それでも使命を帯びているのは私じゃなくてあんたなんだよ、そこんとこわかってんの?  それに、私のほうの用事はあんたにも関係している内容なんだからさ、ちょっとぐらいマジメに話ぐらい参加しなさいよね!」
 そっ、そんなこと言ったって――どういう話をしているのかが理解できないんだもん――レイは困惑していた。

 クラナはレイの様子を見て止む無く諦めることにした、これはこれ以上何を言っても無駄だろう――と。
「そういえば、クロノリアから東に港町があるっていってたよね? 船に乗るの?」
 クラナが答えた。
「港町というのはあくまで世界崩壊前はそうだったということの名残からそう呼ばれているだけ。 今は船なんてとてもじゃないが出せないのよ」
 確かに死んだように黒ずんだ海――そこを渡るだなんてちょっと怖い気がする。 しかし――ウェイドは答えた。
「ええ、まあ――それが通例でしたが、やはり”ヴァナスティア”に巡礼しに行く人たちのことを考えて、 まずはヴァナスティア航路だけでも復活したんですよ」
 は? ヴァナスティア? レイは首をかしげていた。
「ヴァナスティア航路は8年前に復活したそうですよ。 ”エルトーナ”と”アルトーナ”の航路もほんの数か月前に再会したそうですね」
 えっ? そうなの? クラナは耳を疑っていた。
「クロノリアでじっとしていると時代の波に取り残されていくわね――たまには外に出ないと行けないわね――」
 なるほど、確かに――それはレイも同意した。 けど、ヴァナスティア? 巡礼に行く? 航路? エルトーナ? アルトーナ?
 一体、何の話なのかさっぱりわからないレイ、 こういう所から彼女は既に話についていけていないのである。

 ヴァナスティアというのは、それこそ世界の常識みたいなもので、 クロノリアという辺境中の辺境の地に住んでいない限りは誰でも知っているもので、 ヴァナスティア神教という宗教のことなのだそうだ。
 その総本山が、ドミナントの遥か北に位置する島にある聖都ヴァナスティアだそうで、古の時代から存在しているらしい。
 そして、実はドミナントの太陽の祭壇を管理しているのはヴァナスティア神教の関係者たちであり、 ドミナントとヴァナスティアとは切っても切り離せない関係らしい。
 エルトーナはクロノリア山を下りてから東にある港町の名前である。 で、その対岸、つまり、東の大陸の西端にある港町がアルトーナという名前なんだそうだ。
 大昔の時代、海底洞窟という地下道があってこの洞窟が2つの大陸を結んでいたのだが、 海流の激しさゆえ、海の水で埋没されてしまっていた。 しかし、世界崩壊による地殻変動が起こることで海底洞窟は隆起し、 現在は通れるようになったようだが、それもどうやら時間の問題らしく、日に日にその洞窟も浸水し沈みつつあるらしい。
 でも、その間に”エルトーナ”と”アルトーナ”を結ぶ船が復活することで旅人の助けになりそうだ。
「だけど船旅は危ない。 それに、ヴァナスティア航路も未だに半年に1本程度って感じだから、こっちの航路もあんまり頻繁に通ってないかもしれないよ」
 それというのはタイミングが命ってこと――

 そして、魔物たちの危険をかいくぐり、だだっ広いエルデーネル大平原……このあたりの平原はそう呼ばれている。 そして街道の休憩所を利用して夜を明かしながら東へと進んでいくと、5日目の夜明けごろにエルトーナにたどり着いた。
「でしょ? 早起きして出てきたのが正解だったでしょ?」
 クラナは得意げだった。船が出るとしても午前中の朝のハズだからと踏んで、出る時間をずらしたのだった。 すると、案の定船は朝に出航の予定だったようだ。
「もちろん、朝のほうが明るいからね、だから朝のうちにってわけよ」
 クラナはまだ得意がっていた、もういいって……
 距離的にもエルトーナからならアルトーナのほうが近いため、 少なくとも昼の時間帯を狙っていけば、目的の連絡船に遭遇する率は高そうだ。 もちろん、確率で船を動かしているわけではないのだが。 とはいえ、いつ船が動くのか前情報がない彼女らにしてみれば結局運でしかないため、本当に確率に頼るしかないのである。