彼らがアーカネル騎士団に入団してから4年ほどが経過した。
あの重要なミッションのクロノリアへの訪問が達成されたのも数か月前のことだった。
そしてそれからほどなくしてロイドの妹がアーカネルにやってきて、今では――
「お姉ちゃん♪ あったかぁい♪」
「もー♪ しょうがない子たちねぇ♪」
と、アレスの家に身を寄せていた。
彼女は近所の女の子たちに懐かれていた。
「お姉ちゃんって綺麗な人ですね! 彼氏さんとかいるんですか?」
「あら! 気になっちゃう系?
もちろん! すっごく素敵な彼氏がいるのよ♪ どんな人か知りたい?」
「うん! 知りたーい♪」
「本当にしょうがない子たちねえ。いいわ、特別に教えてあげる。
私の彼氏はロイドって言う人なのよ♪」
えっ、ロイドって……
「その人ってお姉ちゃんのお兄様じゃないんですか?」
「そうだよ! そうだったよね!」
「ええ、そうなのよ。
だからつまり、お姉ちゃんに彼氏ができるまではロイドお兄様が彼氏なのよ♪」
「そうなんだ! でも確かに、ロイドお兄様ってカッコイイよね♪」
「うん! ロイドお兄様とリアントスお兄様はカッコイイ♪」
別の部屋で、その話が聞こえてきたスティアがロイドとリアントスを揶揄っていた。
「おたくら、人気者だな♪」
やめろ――2人はイヤそうにしていた。てか、スティアが入っていないのは?
ああそうか、スティアだからな――ロイドとリアントスは密かにニヤっとしていた。
「あっ、そろそろ時間ね。
そういうわけだから、お姉ちゃんは出かけないといけないんだけど――」
「うん! お姉ちゃん! またねー♪」
「またねー! お姉ちゃん!」
ネシェラは立ち去った。
「にしても、本当に女子に人気なんだな……」
ロイドたちと一緒にいたアレスはそう言うとロイドとリアントスは頷いた。
「見た目は女子だけど中身イケメンだからな」
「ああそうそう、女の中ではカテゴリ男ってやつだったな」
ネシェラは町の路地へと繰り出していた。
「日曜日が平和っていうのはいいことよね。」
だが、周囲の男たちは極力彼女に目を合わさないでいた――
男をボコボコにしてみたり、例の臨時選抜の件もあったり、
それこそ同郷であるアルティニア出身者で彼女の武勇伝を知るものは恐れを抱くほどだった。
そんな彼女だが、それでも一定の男性からは人気があるのも事実である。
「おっ! これはこれは美人でセクシーなお姉さんのお出ましだ!
どうだ? 一つ食べねえか?」
それに対してネシェラは悩んだ様子で言った。
「そうねぇ……タダだったらもらってあげてもいいけど?」
男は焦っていた。
「姉さん、相変わらず抜け目がねえなぁ……
仕方がねえ、姉さん美人だからな! ほら、一つもってけ!」
「ありがと♪」
ネシェラはおでん屋さんからおでん串を受け取った。
「次はぜひ買ってくれよな!」
「覚えていたらね♪」
女は怖い。
そして次……
「おおっほお! これぞぼんきゅっぼん!
美人でせくすぃで綺麗な生足と大きなお乳をお持ちの女神様を拝める日がまた来るとは!
ありがたや、ありがたや――」
と、年配の男が拝んでいた。
「ちょっと! まだ拝まれるには早いって言ってんでしょうが! このエロジジイ!」
男は嬉しそうにしていた。
「おお! おお! そんな気の強いところもまたたまらんなあ!」
それに対してネシェラはため息をついていた。
「ったく。それにしても、ずいぶんと元気になったんじゃあないの?」
エロジジイは満面の笑みで答えた。
「女神様のおかげでなあ! ほれ、すっかりこの通りですな!
今ではすっかり美人でせくすぃで綺麗な生足と大きなお乳をお持ちの女神様が見れるのが生き甲斐になっとります!
今日もまたそのお姿を拝見できるとは……ありがたや、ありがたや――」
エロジジイは年甲斐もなくはしゃいでいた。
このエロジジイは身体を悪くしていたのだが、
美人でせくすぃで綺麗な生足と大きなお乳をお持ちの女神ネシェラ様を見るや否や、
すっかり元気になっていた……エロの力というやつ……。
ネシェラは微妙な気持ちだった。
「だから拝むなっつってんだろ、このエロジジイ! 寿命を回収したろか!?」
「うひょぉー! たまらんなぁ!」
それではもはや女神というより死神である。
さらにはこんな話まで。
「おっ! これはこれは女神ネシェラ様じゃないかぁー!」
「やめとけよ、あの女、とんでもない跳ねっ返りらしいぞ?
下手に触れようもんなら地獄を見るらしいぜ――」
「そりゃあ触れるからに決まってんだろーが! いいか?
女神ネシェラ様には触れちゃなんねぇんだ、
あの美人でセクシーで大きなおっぱいを持つお方は見るだけならバチが当たることはねえんだ!
つまり、あの女神様は俺らの目の保養様なんだよ!」
「なるほど! 見るだけならセーフってわけか!」
その話を聞いているネシェラは舌打ちをし、咳払いをしていた。
「あー! 目の前に一度に8人ぐらいぶち殺してもいいって言う男現れないかなぁ!」
あからさまに聞こえるようにそう言うネシェラに対し、男たちは命の危険を察して一度に黙っていた。
そしてこんな話も。
「ふぅむ、あれが最近入ったという噂の執行官の卵という女性ですか。
確かに、あのアシュバール家の者ともタメを張るほどのなかなかの器量持ちですな――」
お城から2人の貴族が彼女のことを遠目から眺めていた。
「ですが、あれはああ見えてとんでもないじゃじゃ馬とも聞きます。
それこそ、先日の臨時選抜試験をパスしてしまったほどの腕とも聞いていますが――」
「しかし、女性というのは得てしてそういうものでしょう。
うちの家内なんかも似たようなもんです、お宅だってそうでしょう?」
「言われてみればその通りですが――」
「だったらお転婆とか強いとか、そんなものは大して問題にはなりません。
最初から強いことがわかっていればさほどがっかりしないというものです。
それならばあれほどの器量持ち、あのままにしておくのはあまりにも――如何でしょうか?」
「うーん、確かに……それならそれで一考の余地がございますな。
ですが、うちのせがれはつい先日縁談が決まってしまったものでして――」
「おや、そうでしたか――それは誠に残念……いえ、おめでとうございますと言うべきですね」
ネシェラ、人生の先輩方にやたらと人気がある件。
なるほど、そういう考え方があるわけか。