ロイドの過去。自分たちの家の外にて、当然雪国はあたり一面雪だらけの世界である。
その当時は晴れており、ロイドとネシェラの2人は外に出ていた。
「ねえお兄様ー! 見て見てー!」
ロイドのかわゆいかわゆい妹のネシェラ、当時7歳――奇しくも風雲の騎士団の失踪から数か月後の話である。
まさに小さな女の子が着ていそうな身体にフィットしない可愛らしいワンピース姿の彼女はにっこりとしながら兄を呼んでいた。
ただし、身長は120cm代後半と、この頃の女の子の身長にしては若干高いのが特徴である――3歳のころは77cm程度と逆に小さかったほどなのに。
「どうしたんだネシェラ?」
ロイドは剣の素振りをしていたところだった。
「ほら見て!」
彼女は左手に槍を携えていた。
「どうしたんだそれ?」
「ウン! この前さ、アーカネルの兵隊さんが折れた槍を置いてったじゃん!?
それをさ、私なりにちょっと直して改良してみたんだよ!」
という子供の”おままごと”的な所業……などではなく――
「おいおいおい……お前マジかよ……とうとうそんなものにまで手を出しやがって……」
と、ロイドは頭を抱えながら言った――そう、ガチの所業ということである……。
それもそのはず、この娘――なんと、4歳のころから土地柄必要な雪かき用のスコップやスノーダンプとは序の口で、
仕舞いにはちょっとした除雪機――機械工作までお手のものとかある意味無茶苦茶ヤバイ能力を持っている娘だった。
機械工作はおろか、女の子ながらに既に料理やお裁縫も達者なのもそうだが、
それに加えてとうとう鍛冶仕事までこなすヤバイ妹である。
「見て見てほら! こうしてさ――」
と、ネシェラは構えると次の瞬間!
「はぁっ!」
槍を前方に勢いよく振りかざすと強烈な風が巻き起こり、前方の雪が一度に吹き飛んだ!
槍の穂先あたりには何やら緑の宝石のような鉱物がついており、光り輝いていた。
「仕組みはね、見た目上はフツーの槍なんだけどね、
この宝石……”エンチャント素材”っていうものの一種なんだけどね、
これに風の魔力を込めておいて一気に弾き飛ばす構造なんだ!」
なんちゅー妹だよ……。するとその時……
「ん? なんだ!?」
上空から翼竜が飛来してきた!
「げぇ……面倒なのが現れたな……。仕方がない、アーカネルの兵隊を呼ぶか――」
ロイドはそう言うと、ネシェラが――
「ちょっと待って! 私、いいこと思いついたの! ねえお兄様! ちょっと手伝ってほしいの!」
何をするんだ……ロイドは訊いた。
「私をあいつが近くにいる高さぐらいまで飛ばしてくれないかな!?」
ネシェラはにっこりとした面持ちでそう言うがロイドは悩んでいた。
嫌だというとすぐにへそを曲げるし――かといって言う通りにすると、それはそれは兄としては心配……
いや、もう……どうにでもなれだ!
そもそも妹の言うことを聴いて失敗した試しがない、その経験則に基づき、ロイドは覚悟を決めることにした。
「わかったよ、仕方がないな。いいか? 絶対にけがとかするんじゃねえぞ!」
ロイドは木の板と丸太を用意していた。
ところがその1年後、同じ場所にて……
「なんだなんだ? またワイバーンか!? しかも3体……数が多いな」
「いえ、あれはレッサーロプロスという種類ですね――」
ロイドはアーカネルの兵隊と話をしていた。
「そういう種類なのか。とりあえず、やるか――」
ロイドは剣を出すと、アーカネル兵は嬉しそうに言った。
「そうか、ロイドさん、いよいよ剣閃飛ばせるようになったんですね!
もしかして、初お披露目ですか?」
「いや、もう何度もやっている、10回以上はな――」
あっ、そうなんだ――兵は少し焦っていた、ロイドはむしろ何度も言われてそろそろ飽きている頃だった。
「私は剣はてんでダメですが、槍も弓も達者ですのでそちらはお任せください!」
すると、背後からあの女の子が――
「槍と言ったら私の出番ね!」
と、あの槍を持った女の子が得意げな表情で現れた。
槍は以前に改造したそれではなく、自ら一から新たに作り直したという代物だそうだ――
「ネシェラさん! 危ないですよ!」
「ネシェラ! 今回は流石にダメだ! 数が多すぎる!」
アーカネル兵とロイドは彼女に注意を促した、がしかし――
「んーん! あのぐらい、私に任せて!」
というと、彼女はすぐさま走り出し、そして――
「さあ、行くよ!」
と、なんとそのまま大空に向かって大ジャンプ!
「何っ!?」
「えぇっ!? ネシェラ……さん……!?」
ロイドとアーカネル兵は彼女のその所業に至極驚いていた。
「えい! やあっ! たぁっ!」
と、ネシェラは次々と魔物に襲い掛かると、2体をそのまま撃墜してしまった……。
「トドメいくよっ! はぁっ!」
そして最後に自分に向かってくる魔物めがけて槍を全力でぶん投げると魔物の身体を貫き、
魔物を全滅させてしまった……
「ぃよいしょっと……」
最後に、そっと着陸した後に地面に落ちた魔物から槍を引き抜き、女の子らしく自身の髪の毛と服を整えていた。
「あの……ロイドさん? ネシェラさん、また強くなっていませんか? どういうことですかね?」
「知らん。俺のほうこそ教えてほしいよ」
2人は彼女の所業に唖然としていた。