アーカネリアス・ストーリー

プロローグ すべてのはじまりし刻のはじまりの刻

 話を戻そう。
 ロイドの戦い方はアレスがイメージしているようなライト・エルフらしからぬパワフルな戦いぶりであった。 あの種族がこれほどのパワーを振りかぶることもなかなか珍しい――そう思った。
 というのも、精霊族……主にライト・エルフといえば弓矢のような武器を扱い、 こと古の対戦では”魔法”と呼ばれる神秘の力を用いたとされるような繊細な種族というイメージがなおのこと強いからだ。 しかしながら彼の能力はそれとは裏腹に完全なパワー・ファイターであり、純粋な腕力一本での勝負である。
 しかもそれに加えてスピードもある、そこはさすがに俊敏性もあるライト・エルフといった感じだけど、アレスはそのスピードに翻弄されていた。 後ろを警戒すると前へ、そっちを警戒するとまた別の方向へと華麗に回り込まれてしまっていた。
 そして、ロイドは今度アレスに向かって思いっきり剣を振りかぶってきた。
 今回の戦いはまさに今大会最初の大きな見せ場であった。 それは剣と剣がぶつかり合うさまだけでなく、ロイドの剣がアレスの小手で弾かれるさま、 そしてアレスの剣をロイドがバックステップで華麗に避けつつ反撃をしかけるさま、 見る側としてもなかなか見ごたえのあるシーンだったようだ。
 ここまでの戦いまでは一撃で決着するパターンか、主に素人同士で剣と剣でぶつかり合うさまだけで構成されていたため、 演出を求める側としてはなんとも少し物足りなかったことは確実である。

「なかなかやるな――決勝に上がってくるぐらいだから当然か。そろそろ終わりにするか――」
「何!?」
 戦いが始まってからここまでの動作で1分、試合の制限時間は3分しかないが、 アレスはこれまでの対戦相手を、持久戦重視の戦い方の判定だけで勝ち上がってきた。
 ところが、ロイドはすべての対戦相手を K.O.判定で勝ち上がってきた強者だ。 特にゼクス選手……とても頑丈そうなあの重戦士を大剣の一撃で仕留めたことについては誰もが圧倒されたことだろう。 それだけにK.O.という決まり手は確かなものだといえることはわかることだろう。 とはいえ、ロイドの戦い方のスタンスからするとそれぐらいは当然なのかもしれないが。
 すると彼はすぐさま腰の剣を片付けると、今度は背中の大剣を引き抜いた。 やはり相手の頑丈な装甲をぶち抜くには重量型の武器のほうが効果的ということか、 アーマー・ナイトのアレスに対して使うのなら確実と言える。
 しかし――支給品にしては小剣中剣、そして大剣となんとも数が多い気がする、 それだけに相手によって戦い方を変えているというわけか。 特に大剣は支給品がないため自前で用意するしかないのだが、 大会用に使用できるように申請してチェックを通り抜けたのだろう。
 とにかく、アレスは初撃の大きなスイングを喰らうとなんとかそれをガードして弾いたのだが、 相手のパワーが強すぎるがあまりに大きくのけ反ると大きなスキを与えてしまった。
 そして彼は再び大きなスイングを繰り出すと、 スキだらけのアレスはそれを避けることができず、剣が鎧にぶつかって大きく転倒した。 そこからなんとか態勢を立て直そうとするアレスだが、 ロイドはそこへ勢いよく切り落としを放ってきたため、それをかわすだけで精一杯だった。
 よしんば立ち上がってうまく動こうにも、ロイドは立ち上がってくるところをめがけてキックを放ってくるため、結局立ち上がることすらできなかった。
 そして、最後に腰の中剣を素早く引き抜き、転倒中のアレスの顔にその刃先を向けた。
「参った、降参だ」
 残り時間およそ1分50秒、転倒状態による降伏勧告のため、ロイドはK.O.判定による勝利としてカウントされることになる。 これが実戦でアレスが魔物ならば、すでにロイドに殺されているハズである。

 それから2週間に渡って闘技場では試験が行われていた。 試験については被試験者ごとに階級を5段階に定めて行われている。
 アレスとロイドは”中の上”ランクの試験といったが段階で言えばランク3に相当し、 ランク3はその年の候補生の質を素早く見極めるのに最も適した強さのランクだから最初にやるのだそうだ。 中間よりも少し上を見るということでおおよその平均がわかるらしい。 弱いほうを見ても騎士に適した逸材ではない場合が多いので中ぐらいよりもやや上を見るのと同時に、 騎士になるのだからやはり強いのが前提ということもありそうだ。 そう言うこともあってか、ランク3については試験期間中でも一番最初に行われているのだという。
 あとは残りの4ランクが1日の試験会場整備期間を設けながら1日おきに行われ、 基本的にはランクの弱いものと強いものをある程度交互にした順番で行われることになっている。 具体的にランクを数値で表すと 3→1→4→2→5 という順番らしく、 3・4・5の順番を意識した形で残りを組み込んでいくという感じのようだ。
 特にランク5、もしくはランク4あたりはある程度名をはせたような人が参加しているケースも多く、 試験にもかかわらず観客が熱狂するほどのようだ。 しかし、騎士に適しているかどうかは別で、全員が合格となるわけではない。
 なお、将軍クラスの人がわざわざ観戦に来るのもたいていランク3以上である。 それというのはつまり将軍と仕事をする可能性もあるということらしく、なんとも光栄なことである。

 近くにオーレストという町があり、ロイドは今まで試験のためにそこで宿をとってやってきたようだった。 それも面倒だし、騎士になったら住まいもアーカネルに移すことになるのだがアレスはとりあえず自分の家に泊めてあげることにした。 これだけ大きい家、ほとんど使用人だけで構成されているこの家ならアパート代わりにもできそうだが。
「ロイド、これ、うまいよ。1人暮らし始めてから長いのか?」
「1人暮らしを始める以前から飯ぐらいは作れるよ」
 その日は試験結果の出る前日の昼、ロイドが昼食を作ってくれたので2人で食べている。 合格発表はいよいよ明日、2人は待ち遠しくしていた。

アーカネリアス・ストーリー
 The Arcanerius Story