アーカネリアス・ストーリー

プロローグ すべてのはじまりし刻のはじまりの刻

 ある世界でのお話。

 彼は今、とあるお城のとある大会の決勝戦に臨むところである。
 彼の名前はアレス=ティンダロス、お城の名前は”アーカネル”城と呼ばれるところで、彼はその都市の大きい家柄の一人息子である。 その大会というのは”第553回アーカネル騎士選抜”試験という名目で行われているもので、つまり彼はその試験中だということだ。 早い話、彼の目的はアーカネル騎士団に入隊することだった。
 この大会は数日間行われ、この実技試験はほぼ同等の能力を有する者同士でぶつかり合うことで考査するのだという。 実技の前には筆記もあるが、実技試験は筆記をパスした者だけで行われる、 つまり、アレスやほかのライバルたちはみな筆記をパスした者たちなのだ。
 戦いはお城の闘技場で行われているが観客は基本的に誰もいない。 いるのはお城に仕える偉い将軍方ばかりだが、そんな中に混じってアレスとは恐らく同じぐらいの歳の貴族らしい風貌の女性が1名いることに気が付いた。 貴族なら基本この大会の出入りをしていてもおかしくはないが、彼らのような”中の上”程度の能力同士の戦いを見に来る貴族はそうはいない。 もしかしたらアレスの家柄のこともあって見に来ているのかもしれない。

 そうそう、アレスの家は名だたる騎士ティンダロスの家系、名門の学校へ進学し、現在18歳である。 彼の父親もまた非常に有名な騎士だが7年前から行方知れずだった。 今もなお父親の噂は絶えず、貴族の間でも一般庶民の間でも彼を心配する者は少なくはない。
 ちなみに母親は父親がいなくなってから2年後に亡くなっており、彼は何とも天涯孤独な身となっている。

 アレスの決勝の対戦相手はツンツン頭で大剣を担いでいる男だ。 アレスとこの男は同い年らしく、決勝までの戦いぶりをみるとなかなか戦いに慣れているようだった、果たして――
 それよりも、そろそろ戦いが始まる――石造りの薄暗い控室を出て、さらに薄暗い廊下を出るとそこは明かりが灯されたコロシアムである。 コロシアムの天井は開閉式だが、試験の日は閉ざされている。
 ここで審判が選手コール。
「アレス=ティンダロス!」
 そう言われて彼は出ると――
「ロイド=ヴァーティクス!」
 あのツンツン頭の男も出てきた。 実は、彼とアレスとは準決勝が始まる前、町のカフェで話をしながら昼食をとっていた。
 彼もアレスと同じく有名な家柄ヴァーティクスの出身で、父親の境遇も家系もアレスとだいたい似ているが、 出身地は”アルティニア”というはるか遠方に位置する雪国だそうだ。
 ただ、アレスと違うのは、彼には妹がいることと学校は一般の学校に進学し、 現在は”ハンター”として生計を成り立てているそうでハンターのランクも中堅程度まで上り詰めているらしい。 つまり、アレスは学校でエリート訓練生としての戦闘、彼はベテランハンターとして修羅場での実戦、この時点で場数が違うということだ。
 こんな彼にアレスは勝つことができるのだろうか――戦いの火ぶたは切って落とされた。

 アレスは青銅製の重厚な鎧を羽織って守りながらの攻めに出る”アーマー・ナイト”の血筋らしい守りの戦法である。
 一方のロイドは”グラディエイター”と呼ばれている攻め中心の戦い方を得意とする。
 ところが、彼は今大会ではあの大剣を一度しか抜いておらず、 今のところ、ほとんど腰に携えていた小剣や中剣と素手による格闘でしか相手を仕留めていない。
 一度大剣を抜いた戦いが、アレスよりも重厚な鎧を着けていたゼクス選手が相手の時である。 恐らく、相手によって戦い方を変えているのだろう。
 しばらくの間はお互いに何もせずに相手の出方を探っていた。 そのうち、最初に仕掛けてきたのはロイドのほうで、アレスはそれに対して反撃に出たものの、それはただのフェイントだった。
 なお、一応言っておくと試合に使用される武具は青銅製などの一般的なものに限定され、基本的には支給品しか使用できない。 あくまで試験なので死人が出ることは以ての外、つまり、いずれの武器も切れ味は鈍いのである。

 ところで、この2人を見ても”アーカネル”という国――いや、”アーカネリアス”という世界の現状は見て取れるであろう。 アレスは人間族で、生物学上ではアーカネル系ヒューマノイドに分類される生き物である。
 しかし、ロイドはどうやら精霊族らしく、生物学上ではエターニス系”ライト・エルフ”族に分類されている。 つまり、精霊族と人間、さらには魔族までもが何の違和感もなく共存していることがこの世界の特徴だ。 ただし、残念ながら魔物も存在し、人々を襲ってくる。
 また、一応言っておくと魔族と魔物は基本的に区別されていて、別のものである。 生物学上では正式名称として魔族は”デモノイド”、魔物は”世界循環性排他的クリーチャー”という正しい呼称があるのだが、 呼びにくいことやまどろっこしいこと、すでに”魔族”や”魔物”という表現として通じることもあり、正式名称の認知度自体はあまり高くない。
 それから、大昔に対種族同士の大戦があったそうだが、 どこの地方でもアーカネルのような形態の国の影響が強く残っているところが勝利しているためかこのような現状になる。 そして、世界の名前がアーカネリアスなのはそのような形態の国の中で最も影響力が大きかった国がアーカネルだったためだそうだ。