彼らは人に訊ねつつ、ティルア自衛団の拠点へとやってきた。
ちなみに、同時にシェトランドについても一緒に訊いて回ったのだが、
やはりそっちの情報を知る者はまったくいなかった。
その拠点は結構な広さの敷地を有しており、テーマパークでも出来そうな広さだった。
「あのー? すいませーん! 誰かいますかー?」
自衛団事務所に入るや否や、事務所には誰もいないのだろうか、確認のためにクレンスは大声でそう言った。
事務所内には事務所らしく数台のコンピュータなどが設置されていた。しかし、どれも稼働している気配がない。
「あっ、誰もいないのかよっ! ったくもー、抜けるなら抜けるって言っとけよー!」
奥から男が愚痴をこぼしながらやってきた。彼は長い髪をしており、目が赤く、ネコのようなひとみが印象的だった。
どうやら魔族の血を強く受け継いでいる人間、所謂”デモノイド”に属する人種らしい。
「それで、何の用かな?」
男は事務所のカウンターのところまで慌ててやってきて、改まって訊いた。
「あ、えっと……私たち、シェトランドを捜しているんです」
クレンスは質問をぶつけた。するとその男は固まった。
「え、シェトランドを……?」
クレンスは頷くと男は何か考え始めた。それから10数秒後――
「うーん……わかんねえな。今、別の人呼ぶから、ちょっと待ってて」
そう言うと男は事務所の奥へと消えていった。
「なんていうか、見た目に反して軽そうな魔族の人だったなあ……」
ラクシスはそう言った、確かにそんな印象の男だった。それにしても、自衛団でもわからないか。
それともあえて隠している? いや、隠している風にも見えなかったな。
「シェトランド? 何かの間違いでしょ?」
「でも、間違いなくそう言っていたんだよ、いいから実際に聞いてみろよ!」
奥から先ほどの男の声と女性の声とが聞こえてくる。
「でも、訊かれたって、私だってわからないからね!」
おい、先に言ってどーする――
「改めて用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
今度は女性がカウンター越しに、ていねいに対応した。
しかし、こちらの用件に変化はなかった。
すると、女性も10数秒硬直し、その後に「ちょっと待ってくださいねー」と言うと、
さっきの男のところへと下がった。
「だから言っただろ! 間違いなくシェトランドってさ!」
「悪かったわね! ていうかそもそもアトラスト、
あんたもあっちこっちに行ったりしているんだからシェトランドの情報の1つや2つぐらい持ってないの!?」
「んな都合よく持っているわけないだろうが! なんだよシェトランドの情報の1つや2つぐらいって!」
なんだか今度は口論になっていた。エクスフォス一行らはその光景を見て、ただただ呆然としている。
「なーんだ! なんだかんだ言っても、あんたはそこまで役に立たないってワケね。
まあ、でも……アンタが言っていたことが事実だったことは認めてあげてもいいけどねー♪」
「ぬあっ、可愛くない女! だからオメェはいつまで経っても彼氏が出来ないの!」
「ハァ!? アンタだってそんなチャライ性格のせいで彼女のひとつも出来ないんでしょーが!」
「ほぉらぁ! 認めたぁー! 彼女暦0年アローナァ~」
「はぁ? なんだと!? 表出ろやゴルァ!」
「ヤベェ! アローナがキレたぁ!」
すると、エクスフォス一行らの視線に気が付いたのか、2人は喧嘩を慌ててやめ、恐縮した。
「す、すいませんねえ――本当に、少々お待ちいただけますか~?」
「ほ、本当に、申し訳ありませんねぇー……」
言い合っていた2人は照れたようなそぶりでそう言ったが、雰囲気はかなり気まずかった。
「ちょっと、あなたたち! 何やっているのよ!」
そして奥からまた1人女性が現れ、2人をしかっていた。
「さっきの奥まで聞こえたんだから! アトラスト! あんたはすぐに調子に乗らない!
アローナ! あなたすぐ頭に血が上るんだから気をつけなさい!」
ご、ごめんなさい――2人はそろってエクスフォス一行らに向かって頭を下げた。
「で……それで、どういった用件なの?」
女性は2人に訊いた。
「いやね、それがシェトランドを捜しているんだそうだよ――」
「ウィーニア、知ってる?」
しかし、彼女もまた10数秒固まってしまった。やっぱりここではムリなのか……そう思った時、
「それなら、確実に知っていそうな人が1人いるじゃない♪」
すると2人も考え、閃いた。
「ああ、そういえばあのオサーンなら確かに知っていそうだな!」
「あらホント! なんで今まで気が付かなかったのかしら!」
オサーンって……オッサンといえば”雷虎ワイズリア”もオッサンだった。
やたらとオッサンに縁がある旅になるのだろうか――
「で、そのオサーンはどこにいるんだ?」
フェリオースはそう言った。すると3人は再び固まってしまった。
「そ、そうだった、あのオサーンは神出鬼没だからなぁ――」
ならダメじゃんか!
「でも、心当たりと言えばあるじゃない?
”バフィンス”ったらいつもお酒を浴びているハズだから――」
うん? お酒を浴びているだと?
そういえばイールアーズは戦の最中なのにワイズリアは酒を浴びているんじゃないかと疑っていたな。
少し追記しよう、やたらと酒好きなオッサンに縁がある旅になるのだろうか――
「じゃあ、居酒屋とか酒場とかに行けばいいのかな?」
アーシェリスはそう言った。しかし、
「いや、違うな。多分お城のほうだな」
と、アトラストが言った。
グレート・グランドでお城といえば”バルティオス”城があるのだが、
そこへ行けばいいのか。すると、後ろから男が現れた。
その男はどこかディルフォードやイールアーズの風貌に似た感じの特徴だった。
「あれ、エクスフォスのお客とはまた珍しいのがいるんだな――」
何、見破られた!? アーシェリスらはその発言に驚いた。しかし驚いたのはそれだけではなかった。
「そうなんだよクラフォード、しかもシェトランド捜しているって言うから、
もしかしたらこの間の戦いと関係があるんかねえ?」
と、アトラスト。つまり、すでにカウンター越しの3人にも見破られていたようである。
喧嘩や茶番(というか本気?)を演じて見せはしたものの、人は見かけによらないもんだ。
しかも、先日の戦いのこともよく存じ上げているようで――情報の伝達も早い。
「よかったら聞かせてくれないか? シェトランドに会いたい目的を――」
クラフォードは改まった。