しかし、シェトランド2人の最初の話にも合ったように、戦況もだいぶ落ち着いたこともあってか、
どちらも遊んでいる状況である、遊ぶにしては相手の能力が残念であるのは否めないが、
ただ、相手の力量なんかよりも、何か別のことを考えながら戦っていたようだった。
「イール、やはり妙だと思わないか?」
「何だよ、そろそろ飽きたから締めるか? それとも――思い出したのか?」
エクスフォスの2人はボロボロで再起不能寸前だった。
そんな中、ディルフォードは何か妙な違和感にとらわれ、あたりを見渡していた。
「この程度の戦い、私はとっくに飽きている。
だが――そうだ、何が足りないのかようやく気付いたようだ――」
何が足りないんだ? イールアーズはそう思いつつ周囲を見渡した。
「おい! まだ――まだ戦いは終わってないぞ!」
アーシェリスはボロボロになりながらも再び立ち上がった。
「早死にしたくなければもうやめておけ」
イールアーズは余所見をしながらそう言い捨てた。
「それよりもディル、何が足りないってんだ?」
ディルフォードはフェリオースの渾身の突きを剣で払いながら言った。
「ほら、やっぱりだ……いつもならド派手に暴れまわっている”ヤツ”の姿が見えんな――」
イールアーズも気が付いた。
「ん、確かに……言われてみればあのオッサンがいない気がするな。
まさか、こんな時に酒を浴びてる……ってことはないよな?」
オッサンとは……通称”雷虎”と呼ばれているワイズリアという名前のシェトランド人だった。
彼もシェトランド人の実力者のうちの1人だが、どうやら不在だということらしい。
シェトランド人の2人が戦いに飽きていて、戦いそっちのけで周囲を見渡し始めているのだが、
エクスフォスの2人にとってはそれが許せなかった。
「なんだ、まだやる気か?」
アーシェリスが再び媒剣の技をディルフォードに放ったが、いともたやすく弾かれた。
それを見て、イールアーズは呆れながらそう言った。
「もう勝負は見えている、そもそもお前たちのことはどうでもいい、――諦めて剣を引くことだ」
どうでもいい? 諦めろ? アーシェリスらは納得がいかなかった。
「何を言う! 元はと言えばお前らが戦争を仕掛けてきたんだろう!
それに俺たちの仲間をここまで殺しておいて! どうでもいいとか何のつもりだ!」
エクスフォス2人はボロボロになりながらも、怒りをあらわにしていた。
すると、イールアーズは言い返した。
「は? お前らのような雑魚……いや、お前らに戦いを挑んで俺たちに何の得があるんだ? 仕掛けてきたのはお前らだろ?」
どういうことだ?
4人の間に沈黙が走ると、さらにイールアーズとエクスフォス2人の間で言い合いになり、次第にエスカレートしていった。
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
フェリオースがそう大声で怒鳴ると、ディルフォードが見るに見かねて話に割って入ってきた。
「気持ちはわからんでもないが落ち着くんだ。イール、お前もだ。
いいか、我々は、お前たちエクスフォスの民が戦争を仕掛けてくるから備えろと言われ、ここに来たのだ。
念のために断っておくが、この場でお前たちの仲間を殺したのは”戦争による成り行き”でしかない。
敵とあらば斃すだけ……ただそれだけの事。
決してわざわざお前たちを殺戮しようなどという考えのもとでやっていることではない。
信じろと言っても難しいだろうが――」
エクスフォスの2人はやけに冷静なディルフォードのその発言に対し、
反論しようにも返す言葉も思いつかなかった。
するとその時、とうとうあの”オッサン”が現れた。
「お前ら! こんな無意味な戦いをするんじゃない!」
”雷虎”が登場し、戦場にいる同胞に片っ端から体術(力づく)でねじ伏せた。
さらにそのまま持っている棒で殴ろうとフェイントを加えつつ、
そのまま拳を振り上げてディルフォードに襲い掛かってきた!
「ディルフォード! やめろと言ってるだろ!」
「なっ! おい! 何故私を狙う! 見ろ! 既に手が止まっているだろ!」
「だったら何故俺を攻撃するんだテメェ!」
「貴様からやってきたんだろう!」
するとオッサンは動作をピタリと止め、的を得ると、少し悪びれた表情で頭をなで、
再び戦場にいる同胞に片っ端から体術(力づく)でねじ伏せていた。
「あのオッサン……ただ暴れたいだけだな」
イールアーズは呆れながらそう言った。
「ワイズリアめ、わざとやったな――」
ディルフォードも右肩を抑えながら呆れていた。
ワイズリアにより説得――というか、シバかれていたシェトランド人は、
今度は反対にエクスフォスを力づくで戦いを止めにかかっていた。
そして、そのワイズリアは再び4人のもとへとやってきた。
「というか、今まで何をやっていた?」
すると、ワイズリアは答えた。
「”密会”だ」
意味が分からない。誰に何しに会っていた? すると――
「この戦いは仕組まれたもんだって確かな情報筋から手に入れたのよ!」
ワイズリアはそう言った、仕組まれた戦いだって!?
「なるほど、それなら説明がつくな」
フェリオースがそう言った。何をそんなバカな、アーシェリスは言った。
「アーシェリス、考えても見ろよ、
俺らもこいつらも、仕掛けたのは自分たちじゃないって言い張っている、
それっておかしくないか?」
確かに、そういわれると、なんだか変な話だなとアーシェリスは考えた。
つまり、この戦いそのものが別のものの意図によって動かされた可能性もありうるというわけだ。
「お前らがずいぶんと犠牲になったのは悪ぃが、まあ、そういうこった。
一応、死体は一緒に回収してやっから、勘弁してくれよな?」
周囲を改めて見返してみると、エクスフォスの明らかな劣勢はさらに深刻化しており、
それがたとえこのまま戦闘を続行していたとしても勝ち目などない、
言ってしまえばエクスフォスの負けであり、彼らの案に賛同するよりほかなかった。
こうして、この戦いは終わった、エクスフォス軍はほかの種族含めて1800名余りが、
それに対してシェトランド人はたったの16人しか犠牲者が出なかった。
「なんでもいいが、何故私らに戦いに備えろと指示だけ出しておいて”密会”とやらに赴いた?
先に情報を手に入れておけばよかったのではないか?」
ディルフォードはそう言うと、ワイズリアは答えた。
「悪りぃなぁ! どちらも急なことだったからよぉ!
そしたら案の定、先にエクスフォスが出張っているってなもんでよぉ!
こいつばかりはどうにもならなかったぜ――」
そんな話を背に、エクスフォスの2人は撤退することにした、急な話か――
なにやら不穏な動きを感じる――仕組まれた戦いであることといい……