ある世界でのお話。
かつて栄華を極めた世界文明は強大な力同士の衝突によって崩壊してしまった……。
それにより、約200年後の今のこのアークデイルの地は未だに霧に覆われており、日中にもかかわらず薄暗い状況が続いている。
しかし、この世界に伝わるとされている”エターニスの理論”にはこうある、
それは言われ方に差異はあれど、”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、
それでも世界が残っているののなら再生は易しい”というものだ。
そう、世界は崩壊してから約200年、この世界は”復興”という名の再生を始めているのだ。
その中でも、復興だの再生だのという言葉とはほぼ無縁に近い都が存在していた。
何故ならその都には”フィールド”と呼ばれる、都全体を覆いつくす強力な防御壁が存在していたためであり、
都は崩壊前後でほとんど変わらぬ文明を営んでいたのである。
しかし、その強力な防御壁も強大な力同士の衝突と共に消え去ってしまっていた。
とはいえ、都自体は無事なのだ。その都、かつてはこう呼ばれていた――
否、現在も――否、未来永劫変わることもないだろうその都の名前、”時空都市クロノリア”である。
クロノリアではその200年ぐらい前に消えてしまったとされる”フィールド”――否、”グレート・フィールド”を修理するため、
住民たちが総力をあげてこの200年間ずっと頑張っているようだがその作業はなかなか進まない。
それどころか”グレート・フィールド”がないために、外界からの魔物の飛来を許しているのが現状だ。
そのせいでそもそも”グレート・フィールド”の修復作業自体が一向に進まず、四苦八苦しているのである。
暫定の策として”結界石”と呼ばれるものを作り、その石によって展開される”フィールド”――否、”プチ・フィールド”で代用しているのだけれども、
その効力はかつての”グレート・フィールド”の力に比べれば微々たるものであり、
それに”結界石”は消耗するため町をあげて作らなければならない状態――
いつの間にやら目的が”グレート・フィールド”修理からちっぽけな”プチ・フィールド”維持へと下降修正しているようだが、
主にそれは若手の”魔導士”と呼ばれる者が役目を担っている。
ただし、効力に対する労力が見合わず、たびたび町の中でも魔物との衝突が見受けられ、
町の長をはじめとする有力者たちは頭を悩ませていた。
しかしこの度、その小競り合いに終止符が打たれるであろう出来事が、起こることとなろうとは。
この都に一人の女の子が住んでいた。彼女も魔導士――いや、まだ魔導士の卵と言ったところか。
彼女の家系は特別な家系らしいが、その詳細については本人さえも把握していない。
しかし、その日は何の前触れもなくその真実を知らされるハメになろうとは、その時まで知る由もなかった。
「いよっし、仕事おしまい! お昼ご飯にしよっと!」
仕事――そう、彼女もまた若手の魔導士、つまり”結界石”の作成に携わっていたのだ。
お昼を終えた彼女、修行のために精神集中を行っていた。
しかしなんだろうか、その日は自分の家の庭がやたらとうるさいことに気が付いた。
いやいや、集中集中――ここで集中力を切らすわけにもいかない、これは修行なのだ、だから集中しないと――
そう思った彼女の願いも虚しく、その騒ぎの主は、なんと家の中にまで入ってきたのだった。
それに慌てた彼女は近くにあった杖を取り出し、慌ててそいつをコテンパンにのしていた。
しかし……やりすぎてしまったのだろうか、相手は完全に伸びきっていた。
よくよく見ると、こいつは鳥の魔物か何かだろうか?
とにかくはた迷惑なやつだな――”グレート・フィールド”が消えてからというものの、
こういった事件はクロノリアではよくあることだった。
流石にお手製の”結界石”の”プチ・フィールド”では塞ぎきれないようで、
やはり、かつての伝説の”グレート・フィールド”の再生が急がれるわけだ。
彼女は修行の後は夕食を作り、それも食べ終えた。
なんたってちょうどいいことに、先ほどはた迷惑な鳥がやってきたんだもんな。
だから余すことなく食べてやったんだ、飛んで火にいる夏の虫ならぬ鳥とはまさにあの鳥のことだ、
食材の買い出しの手間も省けて一石二鳥ってもんだ、彼女は満足するとそのまま寝床に就いたのだった。
ところが――そんな彼女の満足感とは裏腹に、事態は動いていた。
そう、先ほどの鳥のボスらしき影が、彼女の家の庭へとやってきていたのだ。
そんな不穏な空気を察した彼女、すぐさま跳び起きると目をこすりこすり――
その場を見上げると、なんと隣の部屋の壁に、明らかに鳥のような存在の大きな影が!
ひええええ、どうしよう――これはどうしたもんだろうか。
影を見るなり、彼女は恐怖を覚えた、同種かどうかは知らないけれども、この影は明らかに鳥の影だ!
鳥と言えば夕食に食べたやつ――そうかっ! あいつの仲間がこの私に報復しに来たんだろうか!
そう思った彼女――いやいや、こういう時は果報は寝て待つに限るんだ――と思ったが、
どうやらそう言うわけにもいかなそうだった。
そうであるのなら仕方がない、――彼女は意を決し、また近くにあった杖を取り出すと、
恐る恐る隣の部屋から見える庭を覗き込んだ。
すると――なんと、夕食にしたやつよりもはるかに大きいやつじゃないか!
こっ、これはマズイ……なんだかとても強そうだし、絶対に殺される……どうしよう――彼女は、すぐさま身を潜めた。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……彼女は悩んでいた、絶体絶命のピンチ、
このままだと、私は、私は――しかし、その時である。
「何をしている、そんなところに隠れてないでこっちに来て話をしようじゃないか」
なんと、あの鳥がしゃべった!? いや、魔物でもしゃべるやつはいる。
だけどなんだよあの鳥! 私がこんなビビッて出てこれないのを他所に、なに余裕かましてあんなことほざいているんだ?
どういう神経しているんだよあのバカ鳥がっ! 彼女は怒りがこみあげると、それは恐ろしさよりも勝ってしまったようだった。
だけど――その勢いで鳥の目の前に出てこようとしたが急に怖くなり、恐る恐る様子を伺いながら前に出ることになった。
ところが――
「あんたねえ、いきなり他人の家に来て話をしようじゃないかだなんて、どのツラ下げて言っているのさ?」
という声が上空から聞こえてきた。そう思った次の瞬間、もう1体の大きな鳥が降ってきた! ぎやあああああ!
もはや彼女の頭の中はパニック状態、そのまま気を失ってしまった。
「何寝ているのさ、起きるんだよ、さあ!」
彼女は後から来た鳥に翼で頬を引っ叩かれると、正気を取り戻した。
だけど目の前には大きな鳥が! ぎやあああああ!
「うるさいよ! 何時だと思っているんだい!」
ぐあっ! 彼女は再び頬を叩かれた。
「ったく! 人の姿を見るなり驚くだなんて失礼な娘だね!
まあ……そもそもこんな時間にこんな変な鳥が2体来るんだから無理もないだろうけどさ」
あれ? そういえばこのしゃべり方――どこかで聞いた覚えが。
この厳しいようで優しい感じの女の人の声の鳥、彼女はその存在をほかに知らなかった。
「ほら、これでわかるだろう?」
彼女は部屋に明かりを灯した、その鳥は紫色の羽が特徴の大きな鳥、”クロノーラ”だった。
やっぱりそうだ、このクロノリアの都の”聖獣”と呼ばれる存在のクロノーラだ。
聖獣というのはこの世界の守り神様みたいなもので、各地に存在していた。
存在していた、というのは――世界崩壊の折、ほとんどが滅亡してしまったのだ。
とはいえ、滅亡してもまた新たな聖獣が現れるものでもあり、
彼女やもう1体の鳥のように厳しい時代をなんとか生きながらえると、
聖獣としての能力を次の世代へと聖獣としての力を継承する形で存在していくのだそうだ。
そして、そのもう1体の聖獣というのは遥か北東の地に住まう聖獣で、名は”ラグナス”という。
しかし、問題は何故2体の聖獣が自分の家におわすのか、である。
遥か遠方の土地から1体が来て、クロノーラが来たのはその様子を見てのことだろうが一体どういうことなのだろうか。
だけど、その内容は非常に信じがたい内容で、彼女の耳を疑うような内容だった。
そして、そのための下準備が着々と進み、彼女は旅に出ることになろうとは一体誰が予想したのだろうか。
これから語られる冒険は彼女にとってはただの通過点に過ぎないけれども、
未来に続く大きな流れの一部を担っていることは、まだ誰も知らない。
クロノーラ・クロニクル
Chronora Chronicle -The Arcdale Story-